“止まらない円安”を前に金融関係者が注目する「高市首相の発言」…識者は「実質的な為替レートは1ドル=270円」「すでに50年前と同水準」と試算

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本当は「1ドル270・96円」

 例えば「ドル円の名目為替レート」が1ドル100円から1ドル120円と円安になったとしよう。アメリカを訪れた日本人観光客が2ドルの商品を買うとする。かつては200円で買えたものが、240円を出さなければ買えないことになる。

 ところがアメリカで物価が下がり、この商品が2ドルから1ドルに値下げされたとしよう。日本人観光客は120円を出せば買うことができる。円安の影響は限定的なものになったわけだ。

 このように2国間の物価の変化を考慮に入れなければ、為替レートの変化が与える影響を正しく分析できないことがある。そして、この2国それぞれの物価の変化を計算に入れて名目為替レートを物価調整したのが「実質為替レート」だ。田代氏はドル円為替レートの「実質為替レート」を計算し、それを図示したのが冒頭に掲げているグラフである。

「1995年は円が“世界最強の通貨”と呼ばれました。その年の4月に1ドルは平均すると83・6円でした。この値を基準にして日米の消費者物価指数の推移を使い、ドル円の実質為替レートの推移を描くグラフを作成してみました。ただしアメリカの10月の消費者物価指数データが政府機関閉鎖の影響で未発表ですので、8月と9月とのデータを延長した値で代理しています。それを見ると10月の名目ドル円為替レートは1ドル152・8円ですが、実質のドル円為替レートは何と1ドル270・96円となります。アメリカは猛烈なインフレで物価が急騰していますから、円の購買力がさらに弱くなっていることが一目瞭然です。この270・96円は過去に遡ると、1971(昭和46)年の8月から9月の水準に相当します」

円安=日本の貧困化

 1971年と言えば、多くの日本人にとって海外旅行など夢のまた夢という時代だった。それは歴史的な円安で今も同じだと言える。「ハワイへ行って遊ぶには1人あたり100万円が必要」、「ニューヨークでラーメンは3000円から4000円」との悲鳴が上がっている。ドル円為替レートは報じられている150円台ではなく、本当は270円台だと考えると、悲鳴の意味が正確に理解できるだろう。

「ひょっとすると、1971年は高度経済成長期に当たりますから円安が進めば進むほど当時のような経済成長が期待できると誤解する方がいるかもしれません。これは全く違います。1971年8〜9月は1年前に1ドル285・06円だった実質為替レートが270・96円前後まで円高になっていたということであり、まさに日本が豊かになっていく過程を象徴しています。ところが現在のドル円実質為替レートが54年前の1971年の水準になったという事実は、まさに90年代中頃は“世界最強の通貨”だった円がどんどん弱くなっていることを示しており、まさに日本が貧しくなっている過程が浮かび上がっていると言えるのです」(同・田代氏)

 貿易でリアルタイムの為替レートが輸入価格の算定に使われることはないと言っていい。多くは3カ月や半年の期間、契約時の為替レートを予約して計算する。

 つまり現在の円安が続いたとして、実際に販売価格が値上げされるのは来年ということになる。その前に何とかして円高に手立てはあるのだろうか?

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