「パパ、どこにも行かないで」絶叫する娘を振り切り女性のもとへ 49歳夫が“自ら壊すことになる家庭”を築くまで

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勢いで関係をもち、妊娠

 集中力はあったのだろう。3年あまり必死に勉強して、士業といわれる資格を2つほどとった。のちに関連資格も次々と取得。これなら独立できるかもしれないと思っていると、会社のほうから独立を勧められた。

「独立して事務所を構えたのが30歳になる直前でした。独立といってもひとりでは荷が重かったので、似たような士業の先輩と一緒に立ち上げた。エレベーターもない安い事務所を借りて、毎日、電話がかかってくるのを待ち、知り合いのツテを頼って営業に行くような日々だった。初仕事は古巣の会社関係でしたが、そこからの紹介で新しい仕事が広がっていったときは、先輩と祝杯をあげました。うれしかったなあ」

 その勢いで、学生時代の後輩で事務を引き受けてくれていた乃理子さんと関係をもってしまい、彼女は妊娠した。

「彼女は、大丈夫だからって言ったんですよ。こっちも酔っていたから、その言葉に甘えてしまった。でもそんな簡単に妊娠するなんて……。後輩とはいえ、それまで個人的なつきあいはなかったから、このまま結婚するのはちょっとなあと思ったんですが、乃理子は産むと言い張った。それで、じゃあ結婚しようかと。惚れたはれたで結婚したわけではなかったんです」

 妻となった女性が事務所にいるのは落ち着かなかったし、乃理子さんも同じ意見だったので結婚を機に彼女は仕事を辞めた。いずれパートでもするわと言いながら、彼女は専業主婦を楽しんでいたようだった。

「同じ事務所の先輩が『子どもはかわいいぞ』と喜んでくれたので、だったらがんばらなければとネジを締め直しました。人生の流れみたいなものを感じました。資格や仕事は自分の力でがんばって取った、そこから結婚生活が始まる。人生がそうなっているんだと、自分で自分を納得させたのかもしれません」

 だが結婚生活は、案外、うまく流れていった。乃理子さんは料理がうまく、忠信さんは「それだけでありがたい」と思っていたから、ケンカひとつすることもなかった。

 娘が産まれ、息子が産まれ、仕事も安定していった。

 ***

 強く望んだわけではなかったものの、家族を得たことで忠信さんの人生は拓けたように見える。幸せそうな家庭生活を送っていたはずの彼が、なぜ、妻子を置いて女性のもとへ走ることになったのか。【記事後編】で詳しく紹介している。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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