もはやスポーツ観戦の熱気…粗品「チンチロ」が、作り込まれたテレビ番組より人を惹きつける理由

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出目に本気で熱狂

 粗品はギャンブルをエンタメとして成立させる天才であり、「運に振り回される自分」を商品化することができる稀有な芸人である。彼は競馬で大金を失い、巨額の借金を抱える自分のことをYouTubeでもたびたびネタにしている。

 そんな彼がチンチロでサイコロを振る瞬間の緊張感は、競馬などの実際のギャンブルをやっているときに近い。金銭を賭けているわけではないが、彼らの向き合い方は真剣そのものだ。お互いの出目に本気で熱狂して、本気で悔しがる。そこには筋書きのない熱い人間ドラマがある。

 また、この企画が支持されている背景には、参加する芸人たちのキャラクターの魅力もある。それぞれがただゲームを楽しむだけではなく、芸人として現場を盛り上げて、見る人を楽しませる意欲に満ちている。真剣勝負の場でありながら、遊び心のあるエンタメ空間でもある。

 現代のエンターテインメントは、しばしば過剰な演出や複雑な仕掛けで観客を驚かせようとする。しかしチンチロは、その真逆を行く。サイコロという最も原始的な道具を使い、ルールは誰でも理解できるほどシンプル。それでいて、人間の感情と運命の予測不能性が織りなすドラマは、どんな精巧な脚本よりも人を惹きつける。粗品は「面白さの本質は複雑ではなくシンプルなものである」ということを、この企画を通じて証明してみせた。

 3万人という数字は、チンチロがスポーツ観戦に匹敵するような極上のエンターテインメントであるという証しだ。そこに集まった全員が同じものを見て、同じ感情を共有できる一体感。ライブ版の「チンチロ」が提供するのは、デジタル化が進む現代において失われつつある、集団で体験する生の興奮と感動なのである。

ラリー遠田(らりー・とおだ)
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)など著書多数。

デイリー新潮編集部

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