戦後80年「変わらない・変われない沖縄」描く 高橋一生が“アイデンティティー迷子”の警察官に
戦後80年たっても、米国の暴君に全力で尻尾を振る日本の首相。米国にも日本にも虐げられて泣き寝入りするしかない状況が変わらない・変われない沖縄を舞台にしたこのドラマを今、放送する意義は大きい。「1972 渚の螢火(けいか)」である。
時は1972年。琉球警察では本土復帰に向けて、特別対策室が設けられた。任命されたのは主人公・真栄田太一。石垣島出身、東京の大学を卒業、琉球警察に入署して警視庁に派遣された、いわばエリートだ。
ところが古巣に戻ると外様扱い、同級生で同僚の与那覇清徳(沖縄作品といえば青木崇高)からも激しく忌み嫌われる。太一は「沖縄では八重山人(やいまんちゅ)と馬鹿にされ、本土に行けば沖縄人(うちなんちゅ)と蔑まれ、戻ったら今度は内地人(ないちゃー)」と常に差別されてきた。自身のアイデンティティー迷子を静観する難役を託されたのは高橋一生だ。冷徹なエリートではなく、声を荒らげて心のマグマを噴出するような熱い一面も見せる。
一生と崇高だけでも良質なのに、室長の玉城泰栄を演じるのが小林薫ときたもんだ。昭和47年の空気感を完璧に醸し出す布陣。当時のニュースや街頭インタビューの映像を差し込みつつ、琉球警察内の不和とのんきも映し出す。各支部のおじさんは本土復帰も米軍の横暴もどこか他人事。しきりにハブ対策を訴える八重山支部長(瀧川鯉昇)とかね。
琉球警察が一枚岩になれないだけでなく、米兵が罪を犯しても検挙できないジレンマも。米兵による暴行は日常茶飯事だが、琉球警察は何もできず。刑事部長(ベンガル)は捜査をやめさせる始末。これ、昭和の話だが、令和でも同じ構図だ。
おっと、物語の主軸は現金強奪事件ね。本土復帰に備えて大量の米ドル札が沖縄に到着。銀行の現金輸送車が米兵らしき集団に襲われ、100万ドルを奪われる。よりによって米軍案件、特別対策室は極秘で捜査を命じられたから、さあ大変。
与那覇だけでなく、刑事志望で度胸のある新里愛子(清島千楓)や別部署の比嘉雄二(広田亮平)も駆り出される。主犯格は戦争孤児でギャングの宮里武男(嘉島陸)。米兵を装って襲撃したと分かるも何かがおかしい。
太一たちはその裏で糸を引く人物を捜査するが、当然米軍からも横やりが入る。CID(アメリカ陸軍犯罪捜査局)のジャック・シンスケ・イケザワ大尉(城田優)は太一を威圧的にけん制するも、琉球警察の捜査に理解を示す。この事件には戦果アギヤー(米軍の物資を盗む者)だったとうわさされる実業家・川平朝雄(沢村一樹)の存在と米軍案件の闇が絡んでいるという展開。
印象的なのは、東京にいる太一の妻(北香那)が沖縄の本土復帰の報道が東京ではほぼないと伝える場面だ。「由美子ちゃん事件」「宮森小学校米軍機墜落事故」「コザ暴動」など、沖縄の人が忘れない怒りの事件や連綿と続く悲劇を、本土の人間はよく知らないという皮肉。
沖縄の怒りや戦後の隷従政治について、学校で教わった記憶がない。近現代史の教育が絶対的に足りていないと思うのは私だけか?








