「ラブ・ドール販売は本当にひどいですが…」 大炎上の「SHEIN」出店をパリの老舗百貨店はなぜ認めたのか 32歳社長がすべて答える

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 11月5日、中国発のファストファッションブランド「SHEIN(シーイン)」がパリの老舗百貨店「BHV(ベー・アッシュ・ヴェー)」に出店した。世界中のZ世代に人気のネット通販ブランドが、ファッションの中心地で初めて実店舗を構えた。ところが、オープンしたこの日、それに抗議する人々がデパートの周りを取り囲んだ。パリ在住のジャーナリスト・広岡裕児氏がBHVの社長に出店に至る経緯を聞いた。

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 SHEINは低価格と豊富な品揃えを武器に中国製の衣料品やアクセサリーを扱うアパレル通販会社だ。オンラインに特化した販売だったためコロナ禍に急成長し、今やファストファッション大手のZARAやH&Mなどを追い抜き、世界のアパレル市場でナイキ、アディダスに次ぐシェア3位。ちなみにユニクロは6位だ。世界150の国と地域でサービスを提供しているが、中国での販売はないという。

 SHEINのウリは安さばかりでなく、早さもある。サイト上には流行をいち早く取り入れた新作が毎日3000~5000点もアップされるのだ。自社工場を持たないSHEINは、小規模な下請け工場と規約を結び、小ロットの商品を生産することで驚異のスピードが生まれるという。そのため“スーパーファストファッション”と賞賛する声もある。

 その一方で、商標権や著作権の侵害が疑われる商品も多く、米国では数十件の連邦訴訟を起こされている。日本では2023年にユニクロが、自社商品に酷似したカバンをSHEINが販売したとして不正競争防止法に基づく訴えを起こしている。また、韓国ではSHEINが扱う下着などから基準値を超える発がん性物質が検出されたとの報道もあった。

 経営コンサルタントの河合拓氏の著書「知らなきゃいけないアパレルの話」(ダイヤモンド社)には《つまりシーインは、工場で余った残反や余った商品(余剰在庫)をタダ同然で買い取り、ブランドネームを変えて販売しているだけなのだ。余った商品の中から売れ筋をピックアップして販売するから3000SKU(編集部註:Stock keeping Unit=最小管理単位の略)を新規投入するという膨大な品揃えも可能なのだ》との指摘もある。広岡氏は言う。

フランスでは有名ブランド

「もともとフランスの既製服業界や環境団体から批判されていたのですが、SHEINの通販サイトで少女を模した成人向け人形(ラブ・ドール)が違法に販売されていたことから、フランスのレスキュール経済・財務相は『吐き気を催す』とまで発言。開店2日前に捜査が開始されました。そんなこともあって、フランスでは出店を疑問視する向きも多かったのです。そのため、なぜSHEINの出店を認めたのか、BHVの社長に取材を申し込みました」

 BHVは2年前にSGM(ソシエテ・デ・グラン・マガザン )という不動産会社に売却された。取材に答えたのはSGMでマネージングディレクターを務めるカール・ステファン・コッタンダン氏で、まだ32歳ながら今年4月にBHMの社長に就任した。

コッタンダン社長:私たちは誰もが利用できる百貨店を復活させたいのです。かつて百貨店は庶民の憩いの場でした。ファッション、アクセサリーはもちろん、家庭用のあらゆるものが揃っていました。ところが、時が経つにつれ百貨店は高級な場所に変わり、観光客向けになりました。私たちはBHVに庶民の商品を取り戻したいと思っています。SHEINのような手頃な価格のものから高級品まで取り揃えた、多くの人を歓迎できる場所にしたいのです。

――なぜそれがSHEINなのか?

コッタンダン社長:SHEINはフランスで2500万人の顧客を抱えるブランドになっています。フランス人のほぼ2人に1人がSHEINで購入しているのです。

SHEINは米国出店を狙っていた

――SHEINは毀誉褒貶も少なくないブランドだが。

コッタンダン社長:多くの批判があることは存じていますが、フランスのお客様はSHEINを気に入ってくれていますし、SHEINもフランスを気に入ってくれています。

――BHVから出店のアプローチをしたのか?

コッタンダン社長:そうです。数カ月前にアプローチしました。彼らは非常に強力なオンラインを持っていますが、私たちは実店舗での小売業に優れているという自負がある。優れたオンラインには実店舗も必要であると提案しました。もっとも、彼らは米国での店舗を検討していたようですが、私たちが説得してパリに開店することになったのです。

――オープン後、客の反応はどうか?

コッタンダン社長:たくさんのお客様が来店してくださり、とても順調です。みんな驚いていますよ、メディアでSHEINの悪いウワサを聞いていたので。実際に商品を見てみると、他の多くのブランドと同じく、ただのファッションブランドの一つにすぎないことがわかったのです。最上階にSHEINがあるので、来るにも帰るにもすべてのフロアを通ることになりますから、家電や書籍、香水などあらゆるものの購入が上がっているようです。

――悪いウワサの中にはラブ・ドール問題もあった。

信頼できるパートナー

コッタンダン社長:外部の製品を扱うマーケット・プレイスに出店されていたのですが、たしかに、このビジネスはひどい。このスキャンダルは私たちにも到底受け入れられるものではありませんから、グループの社長であるフレデリック・メルランとともにパートナーシップを終わらせるべきか真剣に検討しました。同時にSHEINの対応を待ったのです。彼らは人形をサイトから撤去し、謝罪し、購入者の連絡先をフランス警察に提供しました。ネットでは誹謗中傷も多かったですが、Amazonでもそうした商品の問題はあります。もちろんこの問題に関してSHEINは非難されるべきですが、彼らが責任を取ったのは素晴らしいことだと思っています。信頼できるパートナーであることを示してくれました。

――フランスの婦人服の業界団体が「歴史ある百貨店が超ファストファッションを受け入れるのは、これまでの文化的な価値に反する」と抗議した。それをどう思うか?

コッタンダン社長:私たちはあらゆる批判に耳を傾けますが、ちょっと安易な批判ではないでしょうか。昨今、苦戦しているフランスのブランドは少なくありませんが、それはSHEINの責任とは言えません。フランスにファストフードのマクドナルドが来たからといって、フランスの美食を殺したわけではありませんからね。

――同じファストファッションのユニクロの出店は検討しなかったのか?

SHEINは1年後に判断

コッタンダン社長:ユニクロは時代を超越した永続的な高品質ラインを手頃な価格で生産する方法を実証したブランドで、私たちも大好きです。ユニクロもフランスに多くの顧客を抱えていますから、検討しました。しかしSHEINは世界初の出店です。

――警備員が多いようだが、抗議があったためか?

コッタンダン社長:フランスですから抗議活動は常に起こるものです。私たちの国は抗議の国であり、それはアイデンティティであり、フランスの歴史でもあるのです。

――SHEINの出店は成功するのだろうか?

コッタンダン社長:それは消費者が審判することです。実際、SHEINは完璧に全てをこなしているというわけではないので、全ての人を満足させることはできないでしょう。それでもフランスでは、本当に人気があるのです。出店の成否は6カ月後、いや1年後に判断されるべきでしょう。

 世界初となるSHEINの実店舗で商品を手に取ったパリジャンは、何を思うのだろうか。

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