「警察」「自衛隊」は果たしてクマに勝てるのか? 専門家は「箱罠にはかからない」「追跡には熟練の技が」

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 環境省によると、今年度のクマによる死者数は13人(11月5日現在)にのぼり、過去最多を更新。クマの捕殺は9月末までに5983頭を数え、昨年度の5136頭を遥かに超えた。というのに、クマによる被害は増加する一方だ。秋田県はとうとう自衛隊に派遣を要請したのだが……。

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 自衛隊は「わが国の平和と独立を守り、国の安全を保つことを使命とし、国民の生命・財産とわが国の領土、領海、領空を守り抜く」(防衛庁ホームページより)ために設けられた組織だ。有事は無論、たび重なる災害においても日本人を救ってきた。だが、今回は勝手が違うらしい。

 秋田県の要請を受けた自衛隊は11月5日より鹿角市で支援活動をスタートさせたが、現地での活動は地元ハンターの後方支援ばかりと報じられている。翌日には早速、小泉進次郎防衛相がTBSの情報番組「ひるおび」にリモート出演してこう説明した。

小泉防衛相:秋田県の知事からも「駆除」の要請は来ていないんです。特に秋田県の鈴木知事は元自衛官ということもありまして、自衛隊が本来、クマや鳥獣に対して「撃つ」訓練はやっていないこともよくご存知なんですよね。

 自衛隊はクマの駆除はしないというのだ。その上でこう語った。

小泉防衛相:万が一を考えたときに、銃もしくはナイフを携行してクマを仕留めることができたらいいんですけど、そうじゃなかった場合に手負いのクマほど危険なものはない。やはりクマスプレーなどで、いかに距離を取りながら対応するかが、自衛隊としてやるべきことではないかというのが猟友会の皆さんと相談をした結果です。

 自衛隊としてやるべきことがクマスプレーなのだろうか。クマの生態に詳しい岩手大学農学部の山内貴義准教授は言う。

罠の運搬でいいのか

「政治的パフォーマンスにすぎないのではないかと訝しんでしまいます。クマが政治利用されなければいいなと思いますね」(山内准教授)

 銃を持たない自衛隊は箱罠の運搬や設置といった後方支援を担当する。だが「それすら役に立たない可能性がある」と山内准教授は指摘する。

「後方支援と言えば聞こえはいい。しかし、自衛隊に現場で指示を出すことができるのはハンターのおじいちゃんたちだけ。罠を運搬するだけなら何も自衛隊である必要はないのではないかと思ってしまいます。しかも、罠でクマを捕まえるのはとても難しいんです」

 銃が使えないなら罠しかないが……。

「7月4日に岩手県北上市でクマに襲われた人が亡くなりました。集落にはクマの行動予測に基づいて10基ほどの罠が設置され、罠のエサにも蜂蜜や穀物など様々なものを試みました。結局、11日に民家の倉庫の中で米を食べているところをハンターに駆除されたのですが、それまでの8日間、クマは全く罠にかかりませんでした」(山内准教授)

 今年は岩手県もクマ被害が多い。

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