「警察」「自衛隊」は果たしてクマに勝てるのか? 専門家は「箱罠にはかからない」「追跡には熟練の技が」
罠の設置にも技術が必要
「10月8日、北上市でキノコ狩りをしていた男性を殺害したクマと16日に温泉旅館で男性従業員を襲ったクマは、同一個体である可能性が高いことがわかっています。そのクマは17日に銃で仕留められましたが、最初に被害者を出した日から10日間にわたり罠にはかからず歩き回っていたことになります。北海道で家畜を襲撃し続けたヒグマのOSO18も罠にかかることはなく、最後はハンターによって駆除されました」(山内准教授)
なぜクマは罠になかなかかからないのだろう。
「クマは人工物である罠を警戒します。若い個体やオスは罠にかかりやすいのですが、メスは非常に警戒心が強い。親子連れのクマでも罠に無邪気に入るのは大半が子グマです。その捕らえられた子グマを助けようと、母グマが罠を壊してしまうなんてこともある。ヒグマ同様、ツキノワグマも怪力なので、箱罠など外側からなら簡単に壊せます。私の調査事例では、子グマが捕らえられた罠を壊すため、母グマが崖の上から罠を落として破壊したこともありました」(山内准教授)
だからこそ、罠の設置には技術が要るという。
「闇雲に罠を設置すればいいわけではありません。ハンターは長年の経験で培った知恵を駆使して、罠の置き場所からエサの種類、エサの撒き方、罠への誘因の仕方などを、その足跡からクマの行動や性格を推測して設置するのです。それは短期間の訓練でできるものではありません。ハンターが罠の運搬場所を自衛隊に指示しても、結局、罠の置き方はハンターが現場に行かないとわからない。たしかにハンターの肉体的な負担は減るでしょうが、その代わりを自衛隊にしてもらうのは申し訳ないような気がします」(山内准教授)
警察はライフルで駆除
一方、国家公安委員会は6日、警察官がライフルでクマを駆除できるよう「警察官等特殊銃使用及び取扱い規範」の一部を改正した。施行日となる13日から、岩手県警と秋田県警に他の都道府県警察から銃器対策部隊が派遣されるという。ようやく銃器の使用が可能になる。これに賛同するのは南知床・ヒグマ情報センターの元理事長・藤本靖氏だ。
「銃の訓練を受けている警察官がライフル銃で駆除ができるのは理想的です。彼らの中には狩猟免許を持っている人もいますから、特殊急襲部隊の『SAT』のように『クマット』みたいな特殊部隊を作ってもいい」(藤本氏)
ただし、こちらも経験が物を言う。
「クマは俊敏で見慣れていないとすぐに見失ってしまうものです。市街地で見失って山に逃げられた場合、足跡や草の倒れ方、排泄物の跡などありとあらゆる痕跡を頼りに、長年の経験に基づいて捜索します。警察官もクマの生態を熟知するハンターと行動を共にし、山に入ったり射撃の訓練をしたりして徹底的にクマを理解しないと駆除は難しいかもしれません」(藤本氏)
だが、それほど時間はない。結局のところ罠に頼るしかないのだろうか。だが、前出の岩手大の山内准教授は「罠にかからない賢いクマだけが残る」と言う。
「一度でも罠にかかったり他のクマが罠にかかっているのを見たりすると、クマは罠の危険を学習します。罠にかかる浅はかなクマは次々と淘汰されるので、森には次第に罠に対して用心深いクマだけが残る。実際、罠によるクマ捕獲の費用対効果は昔に比べかなり落ちていると実感します。今年のクマも十分に用心深いのですが、来年以降はさらに用心深い賢いクマが森に残ることになります。これまでの捕獲をクマが学習していることを考えると、より一層、罠による捕獲は難しくなります。政府はその辺の現状をわかっているのか疑問です」
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