「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」が起こした「令和の香港ブーム」 立役者のソイ・チェン監督が歩んだ紆余曲折

エンタメ 映画

  • ブックマーク

トー監督とイップ監督の違い

「リンボ」のプロデューサーはイップ監督と、香港芸能界の凄腕マネージャーとしても知られるパコ・ウォン(黃柏高)氏。イップ監督は、チェン監督が「リンボ」と西遊記三部作の合間に制作した「ドラゴン×マッハ!」(2015年)でもプロデューサーを務めた。

「イップ監督はいろいろなところで助けてくださいます。ストーリーに関して、特に人物の感情表現といった部分、つまりドラマの部分をどういう風に撮ればいいのか、とても多くのことを教えていただきました」

「現場では好きにやれ」という姿勢はトー監督と同じだが、クリエイティブな部分でのアプローチはまったく異なるという。

「トー監督は、どういうテーマで何を撮るか、その映画の中で何を求めるかといったリクエストが非常に多く、しかも厳しい。しかも、遠慮なくさまざまなことをストレートに投げてきます。イップ監督はもう少し優しくて、よく話し合い、ある意味では自由にやれる空間が大きい。ただ、このやり方もいいことばかりではありません。つまり、『失敗したら全責任はお前が取れ』ということ。トー監督はその逆で(「モーターウェイ」の時のように)失敗したら自身が自腹を切って責任を取り、チャンスを与えてくださいます」

人生も創作活動も山あり谷あり

「自分の人生を振り返ると、やはり私も何度も自分を見失ったり、落ち込んだりしました。結局は人生、山あり谷あり。実は創作活動も同じなんですよ。時々見失ってしまって、迷って、その結果にできたものが意外とすごく良かったり。そういったことはおそらく、人生でくりかえし起きます。みなさんもきっとそうだと思います」

 そんな彼が次にたどり着いたのは、九龍城砦だった。

「だからこの『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』も、実は私が自分自身を見失って、迷って迷って、その結果にできたもの。それを意外にもみなさんに喜んでいただけて、自分はとてもラッキーだと思うんです」

 かつて実在し、悪の巣窟として恐れられた巨大スラム街。舞台としてはダークバイオレンス向きだが、描かれたものは超絶アクションと人々の絆だった。大勢の映画人から学んだことが、また新たな形で実を結んだといえる。

物議を醸す海戦映画

 チェン監督の新たな公開作は、17世紀に清朝と台湾の鄭氏政権の間で起こった海戦を描く「澎湖海戦」(2026年中国公開予定)。実のところ、早くから香港と台湾の一部で物議を醸している作品だ。たしかに、予告編が掲げる「台湾統一、勢いは止まらない」という文言にしても、現在の情勢ではただの宣伝コピーとして受け取ることが難しい。

 一方でチェン監督の歩みから伝わるものは、映画に対する真摯な姿勢、学びを意識する内面、そして香港映画への思いである。たとえば、「トワウォ」公開時に「デイリー新潮」が行ったインタビューではこう語っていた。

「正直なところ、香港映画が今後どのような道を歩むべきかわかりません。映画界にいる人たちも、おそらく誰も知らない。誰にも先を予測することはできません。でもひとつ言えるのは、香港映画は道があればどんどん邁進するということ。ゆっくりでも構わないから、とにかくひたすらやっていくことが大切だと思います。80年代もそうでした」

 現時点で言えることは、この作品もまたチェン監督にとっては通過点である事実だろう。紆余曲折を繰り返し、「これからも、とにかくひたすら前に行くしかない」(同上)とも語ったチェン監督のこれまでと今後も、クリエイターによる1つのドラマである。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 3 次へ

[3/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。