「ただの芸人じゃない」東京03角田、ドラマ賞受賞の快挙 バカリズムも認めた“哀愁”と演技力の秘密

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「哀愁」を帯びた存在感

「ホットスポット」で角田が演じたキャラクターは、宇宙人という裏の顔を持っているものの、表向きは善人でも悪人でもない、どこにでもいそうな地味な中年男性だった。仕事場でも日常でも他人に気を使いながら、控えめに生きている。そんな人が同僚に正体を見つかってしまい、さまざまな面倒事に巻き込まれる。頼まれると断れない人の良さもあるので、そこにどんどんつけ込まれていってしまう。そんな彼の健気な姿を多くの視聴者が微笑ましいものとして楽しんでいた。

 東京03として長年にわたって舞台で積み上げてきた経験が俳優としての角田を支えている部分は大きい。彼らのコントは緻密な脚本をベースにしているが、ライブの現場では観客の反応を見ながら瞬時にテンポを調整する感覚が求められる。角田はその場の空気を読む力が非常に高く、シーン全体の温度を測る能力に優れている。それが俳優の仕事でも発揮され、カメラの前で自然に存在できる理由になっている。ドラマ撮影では観客がいない分、演出家やカメラマンが求めるものを自分で察知しなければいけない。角田はその「空気読み」の能力も抜群なのだ。

 また、角田の「哀愁」を帯びた存在感も見逃せない。笑顔の奥にかすかな疲れやあきらめをにじませる表情は、何とも言えない味がある。コントではその哀愁が直接的に大きな笑いに転化されるが、ドラマではそこでじわじわとおかしみが出てくる。中年男性の持つ不器用さ、実直さ、優しさ。それを演技の中で自然に表現できるのが角田の魅力である。

 今回の受賞は、芸人である角田が俳優としても一流であることを改めて証明することになった。彼のことを昔からよく知るバカリズムが当て書きで脚本を書いたのも功を奏して、「ホットスポット」は角田のキャリアにおいても重要な作品となった。

ラリー遠田(らりー・とおだ)
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)など著書多数。

デイリー新潮編集部

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