「いつも奥さんは人目を避けるように…」 名古屋主婦殺人、容疑者の近隣住民が抱いていた“違和感”
【全2回(前編/後編)の前編】
26年にわたって未解決だった殺人事件の容疑者がついに捕まった。逮捕された安福久美子(69)はこの間、犯行現場からも近い名古屋市内の一角で息をひそめて暮らしていた。自ら出頭し、取り調べにも素直に応じているものの、いまも殺害した動機は謎のままだ……。
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【写真を見る】高校時代の安福容疑者 似顔絵と比較するとよく似ている
「10月31日の14時過ぎ、刑事さんから“今夜、犯人を逮捕します”と告げられました。“誰か?”と尋ねると、私の知り合いだという。“高校時代の同級生か?”と問うと、“当たりです”との答えが返ってきました。そこで私がある名前を挙げると、“なぜ分かったんですか”と刑事さんは驚いていました。逆恨みされるとしたら、彼女しかいないと思ったのです」
憔悴(しょうすい)した面持ちながら、張りのある声でこう話すのは高羽(たかば)悟さん(69)である。
長男の目の前で絶命
妻・奈美子さん(32=当時=)が、愛知県名古屋市西区の自宅アパートの一室で殺害されたのは1999年11月。26年の時を経て、愛知県警は先月31日、奈美子さん殺害容疑で名古屋市に住む安福久美子を逮捕した。
全国紙社会部デスクが語る。
「県警は今年8月以降、複数回にわたって安福に事情聴取を行っていました。その際、DNAの任意提出を求めたものの拒否された。しかし逮捕前日、安福は一転してDNA提出に応じ、その日の夜に捜査本部のある県警西署に自ら出頭しました。逮捕後の取り調べで“8月に警察が来て捕まってしまうことを覚悟した。家族に迷惑をかけられず、毎日不安だった。奈美子さんに申し訳ないと思っている”などと供述しています」
鋭利な刃物で首を数カ所刺された奈美子さんの死因は失血死だった。傍らにいた当時2歳の長男・航平さん(28)の目の前で絶命したという。
「玄関を中心に大量の血痕が残されていたことから、奈美子さんはドアを開けてすぐに襲われたとみられています。安福は“犯行の際に手にケガを負った”とも供述しており、実際、アパートから北東方向へ約500メートルにわたって血痕が点々と残されていました。発生からほどなくして、現場周辺で腕を隠すように走り去る中年女性の目撃情報が寄せられ、“年齢40~50代の女”“血液型はB型”などといった犯人像も報じられました」(同)
逮捕は間近とみられたが、捜査線上に安福容疑者の存在が浮上することはなかった。
捜査に従事した県警OBが明かす。
「捜査に進展が見られないまま時が過ぎ、2010年の刑事訴訟法改正で殺人罪の時効が撤廃されたことを受け、愛知県警にも長期未解決事件を扱う特命捜査係が設置された。すべての物証の見直しを行いましたが、実は“土地勘のある者”という絞り込みを徹底していなかった。そのため現場からも遠くない悟さんの出身高校の関係者をつぶし切れなかったのです。また当時、アパートからの徒歩での逃走経路に防犯カメラが設置されていなかったことも影響しました」
安福容疑者の素顔
これまでに投入された捜査員は延べ10万人以上、事情聴取したのは5000人以上に上る。15年には安福容疑者を彷彿とさせる似顔絵も公開されたが、解決に至ることはなかった。
転機となったのは事件から25年の節目を迎えた昨年、新たな捜査方針が打ち出されたことだった。
「学生時代の部活動のOB会名簿などを基に、悟さんの交友関係を一人ずつ捜査員がつぶしていったのです。その中に安福も含まれていて、今回の急転直下の逮捕劇へつながりました。高校の同級生だったこともさることながら、何より驚いたのは、犯人がこの間、変わらず名古屋市内に住み続けていたことです」(地元紙記者)
安福容疑者が犯行時に住んでいたマンションは、西区のアパートから直線距離にして約10キロ。同マンション住人が言うには、
「控え目な印象の女性でした。周囲とは、エレベーターで会えばあいさつを交わす程度の交流しか持っていなかったと思います。覚えているのは、同年代の旦那と子供2人の4人家族だったということです」
一家がこのマンションから約450メートルの距離にある一軒家へと移り住んだのは約10年前。近隣住民は、
「ここは旦那さんの実家です。引っ越し時にあいさつに来た旦那さんが“町内会の会費などについてはすべて自分を通してください”と言って、以降、会の組長仕事なども主に一人でこなしていました。ニュースを見て、奥さんがまるで人目を避けるように暮らしていた理由が分かったような気がしました」
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