阪神はラッキーだった!? ドラ1「立石正広」は、なぜ予想より競合した球団が少なかったのか?

スポーツ 野球

  • ブックマーク

 10月23日に行われたプロ野球のドラフト会議。既に指名された選手は、指名挨拶やメディカルチェック、仮契約などを経て、ルーキーイヤーに向けて次の段階に進んでいる。取材現場では、スカウト陣からドラフト会議の“後日談”を聞くことも少なくない。【西尾典文/野球ライター】

DeNAの入札は意外

 話題の中心は、今年のドラフトの目玉候補だった立石正広(創価大→阪神1位)のことだ。立石は高川学園時代、3年夏の甲子園に出場した。当時はそれほど注目されていなかったが、初戦の小松大谷戦でセンター左へホームランを放つ活躍を見せた。

 創価大進学後、2年春には打率.500、5本塁打、14打点で、東京新大学野球の三冠王を獲得し、昨年は3年生ながら大学日本代表に選出された。そして、昨秋に行われた明治神宮大会で15打数、10安打、2本塁打という圧倒的な成績を残し、チームの準優勝に貢献している。

 その打者としてのスケールと実力は、大学生では4球団が競合した佐藤輝明(近畿大→2020年阪神1位)以来の大物といった声が多く、大学生野手では、岡田彰布(早稲田大→1979年阪神1位)が持つ史上最多の6球団競合に迫るのではないかと見られていた。

 しかし、ふたを開けてみれば、広島、日本ハム、阪神の3球団にとどまった。この展開は、各球団のスカウト陣にとっても意外だったようで、ドラフト会議後には「(抽選を当てた)阪神はラッキーでしたね」といった感想がよく聞かれた。

 なぜ、立石に入札した球団は、予想より少なかったのか。その理由の一つは佐々木麟太郎(スタンフォード大→ソフトバンク1位)の存在だ。佐々木は、花巻東時代に史上最多となる高校通算140本塁打を放ち、2023年のドラフト会議で目玉の一人と言われていた。だが、プロ入りを選択せずに、米スタンフォード大に進学した。

 現在も在学中であるが、来年のMLBのドラフト対象者となったことで、今年のNPBドラフト会議で指名が可能となった。DeNAとソフトバンクが指名した結果、ソフトバンクが抽選で引き当てた。両球団は立石に入札すると見られていた。とりわけ、DeNAの入札は意外だったようだ。

奇襲だった指名

 他球団のスカウトは、以下のように話す。

「ソフトバンクは以前から熱心に調査しているという話は聞いていました。ただ、佐々木の指名があれば、立石の抽選を外したあとだと思っていました。DeNAについては、全く予想していませんでした。佐々木の交渉権を得ても、メジャーのドラフト会議が終わるまで待つ必要があり、指名した球団にとっては、かなりリスクが高い選手です。ソフトバンクのように戦力に余裕があれば分かりますが……かなり思い切った作戦だったことは間違いないですね」

 佐々木のマネジメントを担当する、株式会社ナイスガイ・パートナーズの代表取締役・木下博之氏が、ドラフト会議後の会見で、事前にDeNAからの接触がなかったことを明かしている。この話からも、DeNAの指名は、“奇襲”だったことは確かだ。

 ソフトバンクとDeNAが佐々木に向かった結果、立石への入札を見送る球団が増えたと言えるだろう。ただ、それ以外にも入札する球団が少なかった原因はあったようだ。

 立石は8月1日のオープン戦で右足のじん帯を痛めたため、秋季リーグ戦の前に行われるプロのファームとの交流戦に出場しなかった。ただし、故障によって、スカウト陣の立石に対する評価が下がったわけはない。問題は、各球団の上層部が視察できなかったことにあるようだ。

 ある球団のスカウトは、以下のように詳しく解説する。

「プロとの交流戦は、ドラフト候補がファームの選手と対戦して実力をチェックする絶好のチャンスです。ドラフト候補と二軍レベルの選手を比較しやすいため、各球団のスカウト幹部や球団の上層部が視察に訪れることがあります。ところが、立石は怪我で交流戦を欠場してしまった。立石がプロで通用するか、確認する機会を失ったことで、上層部が不安を覚えたのは否めませんね。アマチュア野球担当のスカウトが立石を推薦しても、最終的に指名するか判断するのは、上層部ですから……現場の意見が通らないことも多々あります」

次ページ:スカウトだけで1位指名を決めていたら

前へ 1 2 次へ

[1/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。