そもそも自衛隊の「89式5・56mm小銃」でクマを駆除するのは至難のワザ…専門家は「アメリカ軍の特殊部隊が3人1組で立ち向かってもクマには勝てない」と断言

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「完全被甲弾」の罠

「つまり敵の兵士であっても、必要以上の攻撃を加えてはならないわけです。その一例として弾丸の種類があります。ハーグ陸戦条約は『完全被甲弾(フルメタル・ジャケット)』の使用を推奨しています。この弾丸は全体が真鍮の一種で覆われているため、当たっても貫通する確率が高くなります。このため完全被甲弾で撃たれた兵士は“過剰な苦痛”から免れる可能性と、後方の医療施設に送られる可能性が高まるというわけです。一方で銃弾には『ホローポイント弾』というものもあります。こちらは命中すると破裂したようになり、体の広い範囲にダメージを与えます。貫通することも少ないので、腹部に当たると内臓のあちこちを傷つけて致命傷を与えます。そしてハーグ陸戦条約はホローポイント弾を非人道的と見なして使用を推奨していません。ところが狩猟の場合は全てが逆になるのです」(同・軍事ジャーナリスト)

 もちろん陸上自衛隊はホローポイント弾を持っていない。一方、欧米のハンターは熊狩りでは炸裂するタイプの弾丸を使う。日本のハンターは散弾銃だ。その口径は18・5mmが一般的だ。M16の口径に比べると3倍を超える。それだけ威力が強いのは言うまでもない。

ハンターのほうが能力は上

「自衛隊の特殊部隊であるレンジャーの隊員にツキノワグマの駆除を命じても、クマに対しては89式5・56mm小銃から完全被甲弾を放つしかありません。これでは致命傷を与えられないでしょう。もちろん何発かは命中するでしょうが、弾が貫通してしまう重大なリスクがあります。結果は“手負いのクマ”を生み出す可能性が高く、凶暴化したクマがレンジャー隊員に向かってきたら最悪の事態が想定されます」(同・軍事ジャーナリスト)

 重要なのは「どんなに優秀な自衛隊員であっても、訓練されていないことはできない」ということだという。

「レンジャー隊員に散弾銃を持たせ、猟友会の皆さんと行動を共にしても何の役にも立ちません。むしろ足手まといになります。ハンターは長年の訓練と経験を積んでクマの駆除を行えるようになったわけで、いくら屈強で優秀な自衛隊員であったとしても一朝一夕でクマの駆除ができるはずもありません。長期的な計画で『自衛隊もハンターを育成する』というならまだしも、『自衛隊員が今、クマの駆除を行えばいい』という意見はクマの“腕力”を過小評価しているだけでなく、ハンターの皆さんにも失礼なことを言っていると自覚するべきでしょう」

 それでは自衛隊にとってクマの駆除は不可能なのかと言えば、それも違うという。第3回【重機関銃や攻撃ヘリを使えば「自衛隊にもクマの駆除は可能だが…」 専門家が「発砲が許可される可能性は“ほぼゼロ”」と断じる理由】では、クマを自衛隊が本気で攻撃できない理由などについて詳細に報じている──。

デイリー新潮編集部

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