秋田県知事が支援要請も「自衛隊にクマは撃てない」は本当か? 1960年代には「害獣の棲み処」に陸海空3自衛隊が“猛攻”をかけた実績も
トド岩の形が変わるほどの猛攻
さらに航空自衛隊はジェット戦闘機のF-86「セイバー」を投入した。朝鮮戦争で戦果を挙げたことでも知られている。
「セイバーに装備された機銃は12・7mmで、これを使って空からトドを掃射したわけです。加えて海上自衛隊が機関銃を載せた魚雷艇を出撃させ、トド岩に向かって“艦砲射撃”を実施しました。トドほど巨大な生物となると、駆除するにしても相当な火力が必要だったのです。ただし、自衛隊による猛攻も直接的な効果を与えることはできませんでした」(同・軍事ジャーナリスト)
なぜ効果がなかったのか。それは陸、海、空の猛攻が始まると、すぐにトドは逃げてしまったからだ。それでも自衛隊が攻撃の手を緩めることはなく、最後はトド岩の形が変わってしまったという。
射撃訓練は無駄だったのかと言えば、事実は逆だった。トドは日高海岸を「危険な場所」と認識し、その後は数年間、漁業被害が減少した。再び漁業被害が深刻化すると同じように射撃訓練が行われ、やはり同じ効果を上げた。
今回も自衛隊はクマに猛攻を加えるのかと思いきや、鈴木知事も小泉防衛相も自衛隊は“後方支援に徹する”ことを決めているという。つまり、現状では自衛隊がクマを駆除することは想定されていないのだ。一体なぜか、担当記者が言う。
自衛隊の“参戦”を求める声
「確かにネット上では陸上自衛隊によるクマへの砲撃や、航空自衛隊による空爆などを期待する声が相当な数に達しています。しかし無人のトド岩なら猛攻を加えることが可能ですが、クマの被害は住宅地で発生しています。民家の付近に出没したクマに対して、自衛隊が砲撃や空爆を加えることは現実的ではないでしょう」(同・担当記者)
これに対して、鈴木知事も小泉防衛相も間違っている、自衛隊はクマを攻撃するべきだという意見は決して少なくない。例えば元航空幕僚長の田母神俊雄氏は「自衛隊は後方支援」という方針には反対の姿勢を示しており、Xに以下のように投稿した。
《銃を使っての駆除は行わないということだ。それならなぜ自衛隊が派遣されるのか。クマを見つけた時の処置の判断は自衛隊に任せたらよい。いちいち自衛隊の行動を縛るべきでない》
だが軍事ジャーナリストは「クマを過小評価しないほうがいいと思います」と警鐘を鳴らす。実際問題として、自衛隊員よりクマのほうが強いというのだ。
第2回【そもそも自衛隊の「89式5・56mm小銃」でクマを駆除するのは至難のワザ…専門家は「アメリカ軍の特殊部隊が3人1組で立ち向かってもクマには勝てない」と断言】では、自衛隊員は当然として、アメリカのデルタフォースやシールズといった特殊部隊の隊員でさえもツキノワグマに勝てない事実をお伝えする──。
註:「もう戦争だよ」クマ被害急増に前秋田県知事が怒り 犠牲者の状態「本当にむごい」「葬る方だって惨め」(ENCOUNT:10月23日)
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