秋田県知事が支援要請も「自衛隊にクマは撃てない」は本当か? 1960年代には「害獣の棲み処」に陸海空3自衛隊が“猛攻”をかけた実績も
環境省は10月30日、全国でクマに襲われて死亡した人の数が今年度は12人に達し、過去最悪の被害者数になったと発表した。これまで最多の死亡者数は2023年度の6人だったため、一気に倍増してしまったことになる。この異常事態を前秋田県知事が「戦時下」と表現して話題を集めたが、理解できるという人も多いに違いない。(全3回の第1回)
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【写真を見る】山道ではぜったいに遭遇したくない…人間と目が合った瞬間のツキノワグマの凍りつくような眼差し
前秋田県知事の佐竹敬久氏はネットメディア「ENCOUNT」のインタビューに応じ、県民はクマの猛威に深刻なダメージを受けていると説明、以下のように訴えた。(註)
《年寄りは散歩ができない。子どもたちは外で遊べない。クマのせいで健康や成長、生活のすべてに影響が出る。こうなるともう戦争だよ、戦争。普段の日常生活を送れないんだから、戦時下と変わらない》
現在の秋田県トップを務める鈴木健太知事は10月28日、防衛省で小泉進次郎防衛相と面会した。知事は「クマ問題が長期化し、現場は疲弊している。県内のマンパワーや資源では対応できない」とし、自衛隊の支援を求める要望書を手渡した。
自衛隊が圧倒的な攻撃力を有しているのは言うまでもない。これをクマに向ければ駆除は可能であり、東北や北海道の人々は平穏な生活を取り戻せる──こんな見解がXなどのSNSでは相次いで投稿されている。
実際、自衛隊が野生動物の駆除を目的とし、総攻撃と形容してもおかしくないほどの“武力行使”に踏み切った事例は存在する。
軍事ジャーナリストは「1960年代、北海道の太平洋に面した日高沿岸では、“海獣”による漁業被害が深刻なレベルに達していました」と言う。
“機関砲”が出撃する事態に
「問題を引き起こしていたのはトドでした。体長3メートル、体重1トンに達する個体も珍しくなく、まさに“海獣”です。食欲は旺盛で、漁具も簡単に破壊してしまいます。当時の日高海岸にはトドが数千匹も棲息し、周辺の漁業関係者は深刻な被害に悩まされていました。漁協も様々な対策を講じましたが効果はなく、自衛隊に支援を要請したのです。結果、自衛隊は『トドの駆除を目的とした射撃訓練』の実施を決めました。目標はトドが集まる岩礁地帯で、地元の人は『トド岩』と呼んでいました。ただし射撃訓練と言っても、歩兵が小銃を撃つというレベルではありません。陸、海、空の自衛隊が岩に向かって猛攻を浴びせたのです」(同・軍事ジャーナリスト)
自衛隊が出動させたのは37mm機関砲と40mm機関砲だった。「機関銃」ではなく「機関砲」という点に注目していただきたい。対空砲として使われることが一般的であり、人が簡単に運べるような代物ではない。
例えば当時の陸上自衛隊は66口径40mm連装対空機関砲を搭載した「M42ダスター自走高射機関砲」を運用していた。ネット上に写真があるので見ていただければお分かりになるはずだが、外見は完全な戦車だ。
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