親密な暗号資産実業家に「恩赦」も…「トランプファミリー・ファースト」の公私混同政治に米国民が「ノー」を突き付ける日

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住宅市場はすでにリセッション入りか

 景気減速の兆しが出てきたことを踏まえ、米連邦準備制度理事会(FRB)も対応に乗り出している。10月29日に開いた米連邦公開市場委員会(FOMC)では、前回に続いて政策金利を0.25%引き下げた。だが、パウエル議長は12月の利下げは既定ではないと慎重な姿勢を崩さなかった。

 これに反発したのがベッセント財務長官だ。ベッセント氏は11月2日、高金利の影響で住宅部門はすでにリセッション(景気後退)に陥った可能性があるとの見解を示し、FRBに利下げの加速を改めて要求した。

 ベッセント氏が指摘したように、米住宅市場は住宅ローン金利の高止まりなどによる販売不振で失速傾向にある。ネット不動産仲介レッドフィンによれば、8月に値下げされた物件数は全体の17%で、8月の単月では集計を開始した2012年以来最高となった。住宅バブルが崩壊する事態となれば、米国経済全体がリセッション入りするのは確実だ。

 ただし、トランプ政権にとって景気の悪化はたしかに痛手ながら、致命傷となる要素は別にあるのではないかと筆者は考えている。筆者が注目したのは、連邦政府が機能不全になっているのにもかかわらず、ホワイトハウスの新たなボールルーム(舞踏場)建設が着実に進められていることだ。

暗号資産業界を「身内びいき」か

 トランプ氏肝いりのボールルーム建設の総工費は約3億ドル(約456億円)だが、既に3億5000万ドル(約532億円)の寄付が集まったという。アマゾンなどのテック大手に加え、テザーなどの暗号資産大手が大口寄付者として名を連ねている。

 トランプ政権と暗号資産業界の蜜月ぶりは今や周知の事実だ。

 トランプ氏は10月23日、昨年にマネーロンダリング防止法違反を認め、4カ月間の拘禁刑に服した暗号資産交換業大手バイナンス創業者のチャンポン・ジャオ氏に恩赦を与えた。この措置により、バイナンスが米国で事業を再展開する道が開ける可能性も出ている。

 だが、ジャオ氏とバイナンスはトランプ氏の一族が関与する暗号資産事業と緊密な関係にあるため、「身内びいきの不公平な措置ではないか」との批判が出ている。

 この件に限らず、トランプ氏を巡る「利益相反」事案があまりにも多いため、米国でこれを問題視する論調が下火になっている。米国ファーストではなくトランプファミリー・ファーストだとの嘆き節が聞こえてくるほどだ。

 統治者の公私分離は18世紀半ばの英国で誕生し、現在に至るまで近代国家運営の基本とされてきたが、トランプ氏はあからさまにこの原則を踏みにじっている。

 これまでのところ、米国民、特に共和党支持者はトランプ氏の公私混同ぶりに寛容のようだが、不景気になれば話は別だ。民主党支持者が主催する「王様はいらない」デモに共和党支持者が参加する状況になれば、トランプ氏の命運は尽きてしまうのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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