「喫茶店で会ったらシクシク泣き始めて…」 「名古屋主婦殺害」夫が語る「安福容疑者」の異様な素顔 「“思わせぶり”なことは決して言わないようにしたが…」

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事件5カ月前の同窓会

 安福容疑者に再会したのはそれから約20年後のことだった。1999年6月、高校の軟式テニス部のOB会で、同級生だけで18人ほどが集まった。女性は6~7人いたが、そのうちの1人が安福容疑者だった。各々が近況を順番に報告し、高羽さんは「11歳年下の女性と結婚し、子供も2年前に生まれました」と伝えた。その昼食会が終わり、当時を思い出そうとみんなで高校のテニスコートへ向かった。道中、安福容疑者が話し掛けてきた。

「結婚して、仕事もしながら家事もやって大変だけど、頑張ってるよって言われて。えらい明るくなって良かったじゃんって思って。頑張ってねって返しました。その記憶しかない。それから5ヶ月後にうちの嫁を刺しやがった」

 11月13日正午ごろ、安福容疑者は高羽さんが住んでいたアパートへやって来て、高羽さんが仕事で不在中に奈美子さんをナイフで襲った。台所のベビーチェアには、当時2歳の息子、航平くんが座っていたが、無事だった。

 高羽さんが訝しげに語る。

「アパートの住所は知らないはずなんです。だからどうやって知ったのか、うちの奈美子と何かあったのか。動機も含めてまだ分からない。安福容疑者との接点が分からないので、もし俺のせいだったら奈美子に申し訳ない。テニス部の名簿も当たって欲しいって警察に言っておけばよかったっていう後悔もあります」

法廷で何を語るか

 事件発生以降、高羽さんは犯人の血痕が玄関のたたきに残っていることから現場保存のため、アパートの部屋を借り続けてきた。その総額は2248万円に上ったが、血痕のDNAと安福容疑者のものが一致したことが今回、逮捕の決め手となった。

「航平には母親のいない人生を歩ませてしまった。だから奈美子が殺された理由だけは航平に伝えなければ、そして母親を守れなくて申し訳なかったという気持ちで借り続けてきた。(似顔絵などの作成に必要な)DNAの法制化につながればという思いも抱いていた。2200万円以上掛かってしまったけど、航平も『父親の執念が報われてよかった』とか言ってくれたので、頑張れて良かったです」

 容疑を認めている安福容疑者はすでに送検されており、このまま起訴されれば法廷で裁かれることになる。26年前の事件ゆえ、当時の記憶も曖昧になっているかもしれないが、高羽さんはこう訴える。

「無駄な言い訳や、刑を軽くするためのあからさまな嘘だとか、そういったことを語らず、正直に申告して欲しい。そして検察の求刑通りに受け入れて一審で終わらせるのが、遺族への誠意だと思っております」

 発生から26年、「毎日が不安だった」という犯人は果たして、法廷で何を語るのか。

水谷竹秀(みずたにたけひで)
ノンフィクション・ライター。1975年生まれ。上智大学外国語学部卒。2011年、『日本を捨てた男たち』で第9回開高健ノンフィクション賞を受賞。最新刊は『ルポ 国際ロマンス詐欺』(小学館新書)。10年超のフィリピン滞在歴をもとに「アジアと日本人」について、また事件を含めた現代の世相に関しても幅広く取材。2022年3~5月にはウクライナで戦地をルポした。

デイリー新潮編集部

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