選手の7割が「最も偉大なホームラン打者」と回答 新庄監督も絶賛した「バリー・ボンズ」が“薬物疑惑”でも一目置かれるワケ(小林信也)

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 MLBのシーズン最多本塁打は73本。バリー・ボンズが2001年に記録した数字だ。通算762本塁打もMLB史上最多。しかし、薬物疑惑のため、その正当性には深い霧がかかっている。

 ボンズ自身が、「1999年までステロイドの存在など知らなかった」と語っているとおり、90年代まで一切、薬物を使用していなかった。その後使用に走ったのは、98年に起きたホームラン・フィーバーの影響だとの推測が定番だ。全米がマーク・マグワイアとサミー・ソーサのホームラン王争いに熱狂した。二人ともそれまでの記録だったロジャー・マリスの61本を上回るハイレベルな闘い。結局、マグワイアが70本で栄冠に輝き、ソーサは66本打ちながらタイトルを逃した。

 その年、ボンズは打率3割3厘、本塁打37本と活躍。史上初の通算400本塁打・400盗塁も達成した。しかし、二人の陰に隠れてほとんど注目されなかった。

 2000年に入ってボンズの体が巨大化したのは誰の目にも明らかだった。

 06年3月、地元紙の記者2人がボンズの薬物使用を暴く本を出版。筋肉増強剤ではないが、07年1月にはアンフェタミン(グリーニー)の検査で陽性反応を示したと報じられた。残念ながら、薬物使用の可能性は否定できない。だから多くのファンはいまもベーブ・ルースの714本、ハンク・アーロンの755本をリスペクトしている。

 ボンズがアーロンの通算記録を抜く時、ファンは冷淡だった。アーロンがルースの記録を破った時のテレビ視聴率は22.3%。だが、ボンズがアーロンを抜いた試合の視聴率はわずか1.1%に過ぎなかった。

選手たちのアンケート

 私は薬物使用を認める立場ではない。が一方で、ボンズの偉大さを否定したくない思いも断ち切れない。

 いくらステロイドで体を大きくしても、バットに当たらなければ、飛ばない。ボールを捉える感覚、遠くに飛ばす技術があってこそ打球はフェンスを越える。

 あの時代、薬物に依存し常用した打者は他にもいただろうが、誰もボンズの域には達しなかった。03年には500-500も達成。この後に続く選手はいまも現れていない。

 興味深いデータがある。07年5月にUSAトゥデイ紙が〈史上最も偉大なホームラン打者は誰か〉をテーマに実施したアンケート結果だ。493人の現役メジャー・リーガーと469人のファンに聞いた結果、ファンの回答は1位アーロン36%、2位ルース33%、ボンズは8%だった。ところが、選手の回答はまったく違う。72%がボンズを1位に推した。選手たちは、薬物の効果以上の、ボンズの技術や感性を知っていたからではないだろうか。

 ジャイアンツで02年に一緒にプレーした新庄剛志も、槇原寛己のYouTubeで、「バリー・ボンズの存在っていうのは、桁が外れている。アイツのバッティング理論がすごくて」と、興奮気味に話している。ある日、新庄はボンズから打撃の要点を二つ教えられたという。一つは、「お前、何でバットを長く持っているんだ。くぎを打つのだって、短く持った方が確実だろ」と。確かにあの強打者ボンズでさえ、グリップエンドから指2本半空けて持っていた。二つ目は、「打席に立った瞬間に、オレは2個目の野球場を向うに作る。リラックスして、2個目のスタンドに入れるつもりで打てば、インコースに詰まっても1個目のスタンドに入るだろ」

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