「緊縮財政でむしろ国家破綻のリスクが…」 今とるべき経済政策は「減税」「給付」「賃上げ」のどれなのか 森永康平氏が日本経済の“盲点”を徹底解説
参院選や自民党総裁選など、選挙があるたびに「減税」や「給付」、あるいは「賃上げ」が大きな論点になっている。政治家の訴えに耳を傾けるとどれも一長一短のような印象も受けるが、結局のところ、どれが一番重要なのか。経済政策の議論の“盲点”を、経済アナリストの森永康平氏が鋭く指摘する――。
※新潮社のYouTubeチャンネル「イノベーション読書」内の番組「【森永康平氏が完全解説】給付、減税、賃上げ…結局どれが大事?いま政府がとるべき経済政策とは」などを再編集した記事です。
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【写真を見る】森永康平氏が指摘する国家破綻の「本当のシナリオ」
――減税と給付をめぐる政策論争をどう見ていますか。
参院選の時の構図を振り返ると、減税を掲げる野党と、給付を主張する与党という対立軸が作られていましたが、二者択一である必要はないはずです。減税と給付を同時に行うことも可能ですし、経済状況を見て片方だけ実施することもできる。
重要なのは、何を目的にするかです。景気対策なのか、消費刺激策なのか、物価高対策なのか、貧困対策なのか――。目的によって取るべき政策は変わってきます。例えば消費を促進したいなら、消費した時に恩恵を受けられる消費減税が有効でしょう。一方で、消費に関係なく手元に残るお金を増やしたいなら給付の方が適している。やりたいことを明確にして、そのためにはどの手段が最適なのか、あるいは両方必要なのかという議論をすべきです。
「賃上げできる環境」を作るのが政治の役割
――減税や給付と並び、「賃上げ」の重要性を訴える政治家も増えています。
賃上げが大事なのは間違いありませんし、否定するつもりは全くありません。ただし、減税や給付は政府がやる話ですが、賃上げは基本的に企業の経営者が決めることです。政治とは直接的には関係のない話で、政治家が目的として掲げるものではないと思います。
外から言われずとも、この人手不足の時代、企業としては“賃上げをせざるを得ない状況”になってきています。こうした中での政府の役割は、賃上げできるマクロ経済環境を整備すること、あるいは省人化のための投資を支援することでしょう。特に中小企業にとってDXは簡単ではありませんから、融資やファンドを通じた設備投資の後押しなどが必要になってきます。
――賃上げさえ促進できれば、国の政策としては十分なのでしょうか。
賃上げされたとしても、従業員からしてみれば、それが一生続く保証はどこにもありません。今年は業績が良かったからボーナスが出ても、来年は分からない。個人は合理的に行動しますから、将来への不安があれば消費にお金はまわりません。
実際のデータでも、この問題は顕著に表れています。ここ数年、消費者の可処分所得は増えているにもかかわらず、食料への支出は増加し、他の支出項目は減少しています。共働き世帯が増えて自炊の時間が取れず、外食や中食に頼るようになったため食費が上がり、その分を他で節約している構図です。
そして貯蓄率も上がっています。なぜこうなるかといえば、政策面での不透明感があるからです。消費増税の話が出たり、エネルギー賦課金や森林環境税、子育て支援金など、いわゆる“ステルス増税”的なものが次々と導入されたりしている。さらに日銀の利上げで住宅ローン負担が増える可能性もある。こうした状況では、賃上げされても「将来に備えて貯めておこう」となるのは当然でしょう。
政治家の仕事は賃上げができるマクロ経済環境を政策で作ることです。「政治で環境を整えたから、経営者は賃上げしてください」と言うなら責務を果たしているといえますが、まともな経済政策もやらずに「賃上げしないのは経営者の怠慢」というのは筋違いです。
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