「緊縮財政でむしろ国家破綻のリスクが…」 今とるべき経済政策は「減税」「給付」「賃上げ」のどれなのか 森永康平氏が日本経済の“盲点”を徹底解説

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「財源がない」は本当か

――経済政策の財源についてはどうお考えですか。

 日本ではいわゆる財政均衡主義が浸透していて、「減税するなら他で増税しろ」という発想が根強い。これは痩せたいから朝食を抜くけれど、夜は倍食べますと言っているようなもので、むしろ太ってしまいます。

 そもそも名目ベースで見ると税収はどんどん上がっていますから、「財源がない」と言うのは無理があるのではないでしょうか。

 さらに言えば、税収の範囲内でしか何もできないという発想自体が間違っています。企業だって利益の範囲内だけで設備投資していたら成長できませんから、銀行融資を受けて投資します。政府も同様で、国債発行という手段があります。

 ただし企業と政府の違いは、企業は返済できなくなれば倒産しますが、日本政府は自国通貨を発行しているということです。誰かから借りているわけではないのに、財源を税収の範囲内に制限する必要があるのでしょうか。

社会インフラが“運任せ”に

――財政破綻のリスクについても指摘されます。
 
 私が本当に恐れているのは、財政破綻を避けようとして財政の出動を抑えることで、結果的に国家破綻に至るシナリオです。

 現在、日本の社会インフラは深刻な老朽化に直面しています。国土交通省が出しているデータによると、地方鉄道では75%以上の車両が耐用年数を過ぎており、トンネルの約4割、橋の8割超が耐用年数を超えてきています。道路陥没や水道管破裂、トンネル崩落などの事故が各地で起きているのは偶然ではありません。

 これらは「コンクリートから人へ」というスローガンのもと、公共投資を削減し続けた結果です。土木関係予算は90年代前半から半額程度まで削られ、市町村の技術系職員も大幅に減少しています。技術系職員が5人以下の自治体が5割に達している状況では、インフラの点検も適切な発注もできません。

 インフラ投資には「予防保全」と「事後保全」の2つの考え方があります「まだ使えそうだけど、耐用年数が過ぎているから何か起きる前に投資しておこう」という予防保全の考え方に対して、現在の財政緊縮派は「まだ使えるのだから」という事後保全の発想です。

 国土交通省の試算では、何かが起こってから事後的に投資を行うよりも、予防保全の方がトータルコストは安くなります。これは医療の定期検診と同じで、早期発見・早期対応の方が結果的に費用を抑えられるのです。しかるべき投資をすることで、結果的に予算も安く抑えられるというわけです。

 建設後50年以上経過する社会資本の割合は加速度的に増加しています。財政破綻を恐れて投資を怠り、社会インフラが運任せになっているのが現状です。このままでは、いざ政策転換を図ろうとした時には、インフラ補修の業者や技術者がいなくなっている可能性もあります。国民の命を守るためにも、そして結果的にかかるコストをおさえるためにも、必要な投資はやはり必要なのです。

〈新潮社の教養・情報YouTubeチャンネル「イノベーション読書」では、今の日本経済が抱える課題について、森永氏が鋭く解説している。〉

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