「久しぶりに脂の乗ったサンマが食べられた」と思いきや…今年の「豊漁はマボロシ」だった 「たまたま群れが沿岸にまとまっていただけ」という驚きの指摘

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「暖水塊」が弱まって岸寄りに

 もちろん、消費者にとっては、豊漁となったおかげで大ぶりなサンマが安く味わえるなら朗報だろう。ただ、筆者は資源の評価に何らかのズレがあったのかと思い、「サンマ来遊予報」をまとめた同機構に確認した。すると、開口一番、「決して不漁の域は出ていないんです」と担当者は切り出した。どういうことか――。

 漁期前に行ったサンマ資源量の直接調査(表層トロール網を使用)で、日本漁船の漁獲対象となり得る東経180度以西の推定分布量は、およそ109.9万トンで、昨年(約92.2万トン)と大きな差がなかったという。
 
 このうち、日本により近い東経165度以西の割合は、昨年の52.8%から大きく減少し、14.6%だった。こうしたことから、今年もサンマの来遊は少なく「不漁」といった判断に至ったようだ。
 
 それではなぜ、8~9月、昨年の2倍以上ものサンマが獲れたのか。好調な漁獲について同機構は、「北海道東沖の暖水塊(海洋中に散在する周囲より高温の海水の塊)が思ったよりも発達せず、弱まって沿岸から離れていたため、北からの親潮が沿岸寄りに入ってきた。このため、サンマの一部も岸寄りを回遊した可能性がある」と説明する。

食べた人はかなりラッキー

 つまり、サンマはまだ資源水準が低いままだが、たまたま道東寄りを泳いできた群れが、近年にはないほどまとまっていただけなのだ。

 もう一点、なぜ大ぶりなサンマがシーズン前半に獲れたのか。こちらははっきりしないようで、JAFICの担当者は「岸寄りで餌が良かったのかもしれないが、餌の違いを見極めるのはすぐには難しい。ある程度の時間が必要」だという。

 豊漁・大ぶりなサンマ漁獲は10月以降、勢いが衰えてきた。毎年恒例の「目黒のさんま祭」が今年も10月12日に目黒区内の公園で開催されたが、この頃から「水揚げも減少傾向で、サイズも小さくなってきた」とサンマを提供した気仙沼の関係者はこぼしていた。

 今後もサンマは豊漁ではなく、30センチ定規くらいの太さになっていく公算が大きい。不漁下だが、たまたま比較的安く、ふっくらした秋の味覚を堪能できた人は、かなりラッキーだったのではないか。

川本大吾(かわもと・だいご)
時事通信社水産部長。1967年、東京生まれ。専修大学を卒業後、91年に時事通信社に入社。長年にわたって、水産部で旧築地市場、豊洲市場の取引を取材し続けている。著書に『ルポ ザ・築地』(時事通信社)。『美味しいサンマはなぜ消えたのか?』(文藝春秋)。

デイリー新潮編集部

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