予約キャンセルは10%以上、「待たされた時間を弁償しろ!」と怒鳴る患者も…コンビニより軒数が多い「歯医者さん」の生き残り合戦

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難しい歯科医院経営

「コンビニよりも歯医者さんの方が多い」という話を聞いたことがある人も多いかもしれない。

 事実、現在日本には歯科医院が非常に多い。

 厚労省の発表によると、2023年における歯科医院(診療所)は6万6843軒。一方、日本フランチャイズチェーン協会が発表しているコンビニは5万5936軒。歯科医院のほうが1万軒以上も多いのだ。

 そうなると、業界内で生じるのが「競合(ライバル)との生き残り合戦」だ。

 とりわけ人口の多い都心や駅周辺にはいくつもの歯科医院が点在し、歯科医院同士の患者争奪戦が繰り広げられている。その戦いに敗れ、廃業する医院も最近増えてきているのだそうだ。

 こうしたことから、歯科医院は「院長の治療の腕」以上に「経営手腕」が求められるといっても過言でないのだが、実は歯科医院の経営はなかなか難しい。

 歯科医も他の科の医師と同様に、勤務医より開業医のほうが収入はいいが、開業するとなると当然、資金が必要になる。内装工事費や家賃、人件費や機器のリース料などで、一般的に言われている開業のための資金は、5000万円ほどだ。現役の歯科医院長はこう言う。

「そのため、歯科医院は収入源である患者さんを増やす必要があり、院長は集客にも気を向けないといけない。しかし、日中は治療に専念するし、スタッフのケアなども不可欠。経営に集中できる時間は限られているんですよね」

 こうして経営に失敗して倒産する医院は少なくない。なかでも最近増えているのは「黒字倒産」だそうだ。

「黒字倒産の最大の要因は、保険診療だと思います。一般的なお店とは違い、病院や診療所の場合は窓口で受け取れる金額は3割。残り7割はさまざまな手続きを経て受け取ることになるため、タイムラグが生じます。その間にまとまった資金が必要になると、経営が一気に悪化するんです」

モンスターペイシェント

 もちろん、歯科医が大変なのは、経営に限った話だけではない。最も気を使うのは、やはり「患者対応」だ。

 歯科医院は大衆性のある施設でもある。基本的に客を選べないため、老若男女関係なく実に“多様な常識”をもった人たちがやって来る。しかも、提供するサービスは治療ではあるのだが、それに「痛い」が伴うこと。カネまで払いながら、わざわざ痛いことをしに来た患者は、みな緊張したりナーバスになったりしていることが常だ。

 このような環境下で生じやすいのがカスハラである。

 医療業界でカスハラ行為をする患者たちのことを俗に「モンスターペイシェント」などと呼んだりする。

「色んなクレームが来ますよ」と苦笑いするのは、街で歯科医院を開業して20年目の男性歯科医だ。

「記憶に新しいところで言うと、『待たせた時間を弁償しろ』と大声で喚き散らす患者さんがいらっしゃいましたね。お待ちいただいたのは10分弱だったんですけど……。その方を待たせてしまった原因は、前の患者さんの遅刻で、トラブルの多くは患者さんの言動が絡んでいることが多いです」

 それでも地域住民に近い存在であり、周辺にも歯科医院が点在していることから、患者さんを『お客様』として扱わないとクチコミに何を書かれるか分からない。近所の人から嫌われたり変な噂が立ったりすれば、一気に患者が減るだけでなく、そこで営業もしにくくなる。

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