優勝した芸人が最も活躍するのはどのタイトル? 「お笑い賞レース」乱立で広がる“格差”の意外な実態

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優勝者のその後

 各コンテストの中で、輩出した王者が最も多いのはR-1だ。しかし、出場資格はあくまでもピン芸人のみで、06年には「博多華丸・大吉」の博多華丸(55)、19年には「霜降り明星」の粗品(32)、20年には「マヂカルラブリー」の野田クリスタル(38)が王座を獲得。普段は人気コンビとして活動しながらも、ネタがハマって見事にピン芸人日本一となった。一方、ほかの歴代王者の中ではすでにテレビでその顔を見なくなってしまった芸人も少なくない。

「SECOND」は、なかなかスポットライトを浴びる機会のなかった漫才コンビの「セカンドチャンス」というコンセプトで立ち上げられた。実力派ぞろいだが、コンビ結成年の上限がないため、今年のファイナリスト8組の中には1972年に結成され80年代の「漫才ブーム」も経験している、ぼんちおさむ(72)と里見まさと(73)の「ザ・ぼんち」も残った。

「『R-1』は『M-1』に対抗し、『SECOND』はベテラン芸人を“救済”するという特色があります。ただ、『R-1』はまだしも、『SECOND』で勝ってもその後、仕事が激増してブレークするコンビは限られます。そもそも『SECOND』のノックアウトステージ進出者を、制作サイドが決めるというのが公平ではないとの声も」(放送担当記者)

 日テレの「W」は女性芸人限定、「ダブルインパクト」は「M-1」と「KOC」の“ハイブリッド”。他局との差別化を図ったことは明らかだったが……。

「『W』は、米に移住して活躍を目指すピン芸人のゆりやんレトリィバァ(34)が初代王者で、2代目はお笑いコンビ・阿佐ヶ谷姉妹、3代目はお笑いトリオ・3時のヒロインと、いずれも現在もテレビを中心に活躍しています。生放送で関東地区での平均世帯視聴率は初回が13.1%で過去最高でしたが、5回目以降、2桁に届かず。お笑いコンビ・にぼしいわしが王者になった昨年は、過去最低の6.6%でした。最も後発の『ダブルインパクト』は、制作サイドが異次元のレベルで投打の二刀流をこなしているドジャース・大谷翔平のようなスター輩出を目指して開催したそうです。しかし、こちらも、生放送の視聴率は5%台でふるわず。今後、ブームを巻き起こすような大会になるとは思えませんでした」(同前)

 全出場者の漫才・コント14ネタでトップの得点をたたき出したものの、2位に終わったロコディが「ダブルインパクト」から約3か月後、「KOC」で雪辱を果たした。

M-1の強み

 では「KOC」と「M-1」だが、これまで2冠を達成した芸人はいない。20代後半の元お笑い芸人によると、それも納得だという。

「コントと漫才は、スポーツにたとえるならば野球とサッカーぐらい違います。あまりお笑いに詳しくない人なら漫才は話芸、コントは寸劇のような印象かもしれませんが、両立させることは極めて難しい。賞レースを目指すなら、『KOC』か『M-1』どちらかのみの出場を選ぶコンビが多いはずです」(20代後半の元お笑い芸人) 

 ここで「KOC」の歴代の優勝者の顔触れを見てみると、17年の王者で山内健司(44)と濱家隆一(41)の「かまいたち」がローカル番組も含めテレビ各局で12本の冠・レギュラー番組を持つ、超売れっ子。菊田竜大(38)、秋山寛貴(34)、岡部大(36)のお笑いコンビ「ハナコ」もフジのバラエティー番組「新しいカギ」などで活躍している。

 一方「M-1」の歴代王者は「フットボールアワー」、「アンタッチャブル」、「ブラックマヨネーズ」、「サンドウィッチマン」、「霜降り明星」、そして初の連覇を達成した「令和ロマン」。ことごとく王者=売れっ子の道が用意されていることが分かる。

「何が『KOC』と違うのかといえば、『M-1』王者になると、オファーが殺到します。テレ朝で放送しているにもかかわらず、他局もお構いなしでオファーしてくるので、優勝の翌日から各局の朝の情報番組をはしごすることになる。『M-1』は各局に先駆けたお笑いコンテストとあって、ブランド力が違う。『KOC』はエントリーが増えたとはいえ、昨年の『M-1』と比べると3分の1程度。芸人の原点とも言え、スポーツで言えば根本的なフィジカルの能力を発揮する漫才で勝負したいと思うコンビも多いのです。それに比べ、コントは一発勝負のような要素があるので、滑ったり視聴者が引いたりしてしまう可能性もあり、『KOC』王者より『M-1』王者の起用が増えるのです。それに『KOC』王者はTBSのお抱えという印象が強い」(民放キー局のバラエティー班スタッフ)

 7月に「ダブルインパクト」、10月に「KOC」で連戦を果たしたロコディだが、堂前は「僕は正直、今年で終わろうと思っていた。一番いい形で終わってよかったです」と賞レース卒業を示唆した。

「デビューしたころ、特に、売れていない時の芸人の最優先事項は、いかに賞レースで上位に食い込むか、です。賞レースのネタを考え続けているうちに、芸歴を重ねることになることも多い。ロコディは芸歴17年目ですが、賞レースに振り回され続けることに疲れ果てたのではないでしょうか。どのコンテストでも、落選すればメンタル面でかなりのダメージを受けます。それに耐えることも要求されるのが賞レースです」(先の元芸人)

ラリー遠田(らりー・とおだ)
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)など著書多数。

デイリー新潮編集部

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