岩手県内で相次いだ衝撃的な“熊害”は同じツキノワグマによるものか? 専門家が「兄弟クマ」による“狂暴化”を疑う理由
第2回【山中では「頭と胴体が離れた遺体」、温泉旅館には「血痕とメガネ」が残され…専門家は「人とクマの距離が異常に近づいている」ことを問題視】からの続き──。10月17日に岩手県北上市で温泉旅館の男性従業員を襲ったツキノワグマは、翌18日に駆除された。(全3回の第3回)
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【写真を見る】山道ではぜったいに遭遇したくない…人間と目が合った瞬間のツキノワグマの凍りつくような眼差し
このツキノワグマは10月8日に山林で男性を襲ったクマと同一の個体なのか調査が行われている。
作家で、日本ツキノワグマ研究所の所長を務める米田一彦氏は、「私が注目したいのは、同じ北上市内で7月4日に高齢女性が自宅でツキノワグマに殺害された事件です」と言う。
「高齢女性を襲ったクマは、7月11日に駆除されています。このクマと温泉旅館の男性従業員を襲って10月18日に駆除されたクマとの関係も調査してほしいのです。なぜなら、この2頭は血縁関係を持つ可能性が疑われるからです。なぜ血縁関係があると考えるのかを説明するためには、そもそも10月18日に駆除されたツキノワグマほど凶暴な個体は例がない、とお伝えする必要があるでしょう」
まず米田氏が10月18日に駆除されたクマで注目するのは、【1】温泉旅館で勤務していた男性の遺体は損傷が非常に激しく、一部がなくなっていた、【2】50メートルも遺体が引きずられていた──の2点だ。
さらに同一個体か調べられている10月8日の事件では、【3】遺体の頭と胴体が離れていた──点も注目すべきだという。
「今まで約130年間、ツキノワグマに襲われた遺体の頭部と胴体が離れていた事例はありません。それは人間の骨格は意外と丈夫で頭と胴が離れにくいからでしょう。また7月4日のケースのように民家に侵入して家人を殺害した例もありません」(同・米田氏)
攻撃性が増大する理由
北上市だけでなく、宮城県栗原市でも凶暴なクマが確認された。10月3日、キノコ狩りをしていた女性がクマに襲われて死亡し、もう1人の女性も行方不明になったのだ。
「栗原市のクマは『一撃多殺』を行ったことが推定されるわけですが、このような例もなかったのです。なぜ東北のツキノワグマがこれほど凶暴化したのか調査が必要であり、もし北上市で人間を襲っていたクマが兄弟だったとしたら分析の糸口になるはずです」(同・米田氏)
単独のツキノワグマは慎重な行動が目立ち、臆病な個体も珍しくない。だが兄弟という仲間がいると行動が大胆になる傾向があるという。
「本来、ツキノワグマは2歳ごろから単独で生活するようになります。ところが最近になって3歳や4歳になっても兄弟で行動を共にする観察例が増えているのです。そして1頭のクマより、複数のクマのほうが攻撃性は強くなることが観察で明らかになっています。複数のクマは互いの攻撃性に触発され、単独のクマでは考えられない残虐性を発揮することがあるのです」(同・米田氏)
温泉旅館で勤務している男性をツキノワグマが“連れ去った”ことも大きな注目を集めた。米田氏によると、この行動は非常に珍しいという。
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