支持者たちが「憎きエリートたち」の苦難に歓喜する…トランプ氏が米国社会に「憎悪の種」をまき続ける理由

国際

  • ブックマーク

政府機関のシャットダウンは先が見えず

 米国社会の分断がさらに深刻になっている。

 10月18日、トランプ政権に抗議する「NO KINGS(王様はいらない)」デモが全米各地で行われた。主催者によれば、2700カ所以上で合計約700万人が参加した。第2次トランプ政権発足後、最大規模だ。

 連邦政府機関のシャットダウン(業務の一時停止)問題が解決する目途も立っていない。トランプ政権は民主党との妥協を図る努力をするどころか、この事態を奇貨として自らの政策をごり押ししようとしているからだ。

 米行政管理局(OMB)のラッセル・ボート局長は15日、連邦政府の人員削減が1万人に及ぶことを明らかにした。米カリフォルニア州地方裁判所が同日、トランプ政権の人員削減の一時差し止めを命じたのにもかかわらず、ボート氏はさらなるリストラを断行する構えだ。

 ボート氏は米消費者金融保護局(CFPB)を廃止する意向も示しており、消費者保護団体などからホワイトハウスにそのような権限はないとの猛反発を受けている。

 連邦政府のリストラは実業家のイーロン・マスク氏が主導してきたが、ここに来てボート氏がそのバトンを引き継いだ形となる。職業人生の大半を国家予算の縮小に捧げてきたボート氏の目標は、100年に一度の連邦政府の革命的再構築だ。あまりの過激さゆえに「死神」と揶揄されている。

トランプ氏はなぜ「憎悪」を煽るのか

 小さな政府を望む人々はこうした動きを支持しているだろうが、約75万人の連邦職員が給与を受け取れない事態は、米国経済に重大な影響を及ぼすリスクがある。

 連邦政府機関の閉鎖により9月の米小売売上高の発表が延期される中、クレジットカード利用データなどの民間指標は、個人消費が減速したことを示唆している。個人消費を牽引してきた富裕層も今後あてにできないとの指摘がある。

 経済の減速傾向が強まれば、来年10月の中間選挙で共和党が大敗し、トランプ政権がレームダック(死に体)化する可能性が高まるのは言うまでもない。

 窮地に追い込まれつつあるトランプ氏に起死回生の手段はあるのだろうか。トランプ氏は移民問題を始めとする各分野で敵味方の構図をつくり、憎悪の感情を煽っている感がある。これが政権への支持をつなぎ止める効果をもたらすかもしれない。

 英ブラッドフォード大学のサミュエル・キャメロン教授は、憎悪は単なる心理的、社会的な現象ではなく「効用の最大化」という経済学の原則から説明できると主張する。主張のポイントは効用が金銭面にとどまらない点だ。

 たとえば、移民の排除は米国の経済活動(金銭面)でマイナスだが、優越感や不満の発散などの心理面のプラスの方が大きければ、トータルの効用は拡大するというわけだ。キャメロン氏はさらに、こうした心理的満足感には中毒性があり、その効用は持続する傾向があると指摘する。

次ページ:危険すぎる「憎悪の経済学」

前へ 1 2 次へ

[1/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。