支持者たちが「憎きエリートたち」の苦難に歓喜する…トランプ氏が米国社会に「憎悪の種」をまき続ける理由

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危険すぎる「憎悪の経済学」

 キャメロン氏の指摘に従えば、トランプ氏の「大学叩き」にも合点がいく。

 ハーバードを始め、エリート大学の卒業生が社会で不釣り合いなほど大きな影響力を持っている状況にMAGA派(トランプ氏を支持する勢力)は憤懣やる方がない。トランプ氏が憎きエリートを懲らしめている様をみるにつけ、彼らは積年の恨みを果たせたと歓喜していることは間違いない。

 米国経済の競争力の一翼を担う大学の活動に支障が生ずることは、経済面ではマイナスだが、トータルの効用ではプラスになる可能性があるのだ。

 このように、トランプ氏は自身への支持を保つために、移民やエリート大学生といった憎悪の種をまき続け、MAGA派がこれを消費し続けるという構図ができつつある。

 トランプ氏は憎悪を消費する勢力の拡大にも努めているようだ。14日には先月暗殺された保守活動家カーク氏に米国最高の民間勲章(大統領自由のメダル)を授与するなど、トランピズム(トランプ氏に従う権威主義的な政治運動)の拡張を図ろうとしているとの指摘がある。

 だが、「憎悪の経済学」が浸透することは危険だと言わざるをえない。憎悪が基盤の政策を実施すれば、米国経済に悪影響が及ぶもののトランプ氏の支持率は下がりにくくなるため、悪政が是正されなくなるからだ。そうなれば、実体経済はもちろん、金融市場にも大きなストレスがかかることになる。

危機が顕在化するのは時間の問題か

 米国の金融市場はこのところ絶好調だ。

 株式市場は数世代ぶりの強気相場が続いているが、2007年の著書『ブラック・スワン 不確実性とリスクの本質』で知られるナシーム・ニコラス・タレブ氏は、10月に入り、米国の債務負担などの構造的な問題が米株式市場の上昇を頓挫させる恐れがあると警鐘を鳴らした。タレブ氏によれば、米国の債務膨張は「ホワイト・スワン(既に明白かつ予見可能な危機)」であり、危機が顕在化するのは時間の問題だという。

 JPモルガン・チェースのジェームズ・ダイモンCEOが14日、「ゴキブリを1匹見たら他にもいるもの。誰もが警戒すべきだ」と発言したことにも注目が集まった。

 自動車部品企業などの経営破綻を契機に、米金融市場で信用リスクへの不安が広がり始めたことを受けての発言だ。実態の見えにくい融資が急拡大したことで市場の疑心暗鬼が生まれやすくなり、金融大手が不良債権を抱えているとの懸念や不正融資に絡む地方銀行への疑念が浮上している。

 このような状況下で景気が悪化すれば、バブル気味の金融市場で大惨事が起きてしまうのが過去の歴史が教えるところだ。トランプ氏の生き残り術のせいで、米国発金融危機が起きないことを祈るばかりだ。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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