フジテレビ激震、ドラマの制作費を1000万円削減も 俳優を悩ます「手取り」問題

エンタメ

  • ブックマーク

放送の暗い現状

 2000万円近くの制作費でドラマをつくれるかというと、可能だろう。フジは2024年、制作費1本2500万円以下でプライム帯の連続ドラマを制作した実績がある。

 主演は女性お笑い芸人だった。俳優としてのキャリアが浅いから、ギャラは安く済んだだろう。通常、主演俳優のギャラは150万円を下らないが、100万円程度に抑えられたはずだ。

 レギュラー共演陣は若手が中心だった。しかも6人と少なめ。毎回替わるゲストが多かった。これならギャラを圧縮しやすい。ベテランの準主演クラスが2人、3人レギュラーだったら、それだけでギャラが嵩む。

 このドラマはコストのかかるセットを使っての撮影が少なく、屋外や飲食店などでのロケが目立った。これなら制作費がかなり抑えられる。ただし、視聴率面では大苦戦。期間平均で個人1.9%(世帯3.6%)に終わった。

 制作費が削減されて良いことも想定される。ギャラが上がる前の有望新人俳優のチャンスが広がる。脚本家も大御所や売れっ子は高いから、やはり有望新人の活躍の場が増える。プロデューサーのアイデア勝負の作品も増えるだろう。

 フジは同時にプライム帯のバラエティの制作費も見直すという。現在はフジを含めた各局とも1時間当たり1500万円程度は使っている。これを下げると、出演者の削減やセットの簡素化などが見込まれる。

 フジは2023年7月にも当時会長だった宮内正喜氏(81)が社内全体会議で「深刻で緊急事態とも言える状況」と声明し、制作費削減を示唆した。だが、実効性のある改革は実現しなかった。 

 他局も他人事ではない。制作費が最も潤沢なTBSは2024年度に約972億円使ったが、2005年度には1240億円もの制作費があった。CM売上高などの伸び悩みなどで減った。制作費に1時間1億円かけるようなドラマも消えた。放送界全体の地盤沈下が続いている。

 配信動画のNetflixは全7回の「地面師たち」(2024年)に1回当たり1億数千万円の制作費を注ぎ込んだ。俳優たちのギャラは地上波ドラマの2倍を軽く超えた。ほかのNetflix作品も同様である。このままだとNetflix作品と地上波ドラマの格差は広がるばかり。

 2026年のWBC(ワールドベースボールクラシック)の独占放映権も約150億円でNetflixが獲った。テレ朝とTBSが中継した2023年の前回は放映権が約30億円だった。使える金のケタが違ってしまっている。

 Netflixなどに対抗するには制作費捻出の錬金術を考え出すしかない。利益に限界がある構造のTVerに期待するより、Hulu(日テレ系)、FOD(フジ系)、U-NEXT(TBS、テレ東系)などの配信動画で、Netflixなどと真っ向勝負するしかないのではないか。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。