フジテレビ激震、ドラマの制作費を1000万円削減も 俳優を悩ます「手取り」問題

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制作費が窮乏

 人権侵害問題と視聴率低迷によって2024年度の赤字が約328億円に達したフジテレビが、制作費の削減に踏み切ることを検討している。プライム帯(午後7~同11時)の1時間ドラマは原則1回2000万円近くにまで下げる見通し。現在は同3000万円程度で、テレビ東京を除く他局と同水準。俳優のギャラなどに大きく関わる問題である。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】

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 フジの制作費は既に減っている。人権侵害問題の前だった2024年度の第1四半期(4~6月)の制作費は約161億円あったが、今年度同期の制作費は約146億円。約15億円下がった。

 日本テレビの今年度同期の制作費は約210億円で前年度並み。フジより50億円近く多い。役所広司(69)や堺雅人(52)らがプライム帯のドラマに主演した際のギャラは1回250万円強なので、この差は大きい。

 フジが現在放送している三谷幸喜氏(64)作のドラマ「もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう」(水曜午後10時)の場合、1本当たりの制作費は通常より高く、4000~5000万円と見られている。菅田将暉(32)、二階堂ふみ(31)、神木隆之介(32)ら豪華キャストを集め、千葉県茂原市に東京・渋谷の一角を模した大型セットをつくったためだ。制作費削減後はこんなドラマをつくるのが至難になりそう。

 ドラマファンにはありがたくない話だが、放送ビジネス的に考えると、やむを得ない。まずフジは人権侵害問題で激減したCMの回復が遅れた。今年度第1四半期のCM売上高は約60億円(前年度同期比マイナス約293億円)。日テレの同期のCM売上高は約559億円(同プラス約33億円)だから、大差が付いた。これで制作費だけ維持するのは不可能に近い。

 トヨタ自動車やサントリーは7月以降にCMを再開したものの、ソフトバンクなどのように復帰が10月以降にずれ込んだスポンサーもある。第3者委から「(組織として)ハラスメントに寛容」と指摘されたのが痛かった。

 2つ目の理由はテレビ局の生命線である視聴率の長期低迷。2024年度のプライム帯の個人視聴率は1位がテレビ朝日で5.0%、2位が日テレの4.6%、3位がTBSの3.9%、フジは3.3%で4位だった。5位はテレビ東京の2.5%。フジは全日帯(午前6~深夜0時)でも4位である。

 フジのプライム帯、全日帯の年度視聴率は個人視聴率が導入された2020年度から5年連続で4位。それ以前の世帯視聴率時代も含めると、4位は10年連続になる。うしろにテレ東がいるが、会社規模が全く違う。

俳優の独立に直結

 最近のプライム帯、全日帯の視聴率を見ても同じ。10月第2週の場合、プライム帯の個人視聴率は1位がテレ朝で5.3%、2位は日テレで4.7%、3位がTBSで4.5%、フジは3.1%でやはり4位。テレ東が2.2%で続く。

「今の時代、視聴率は関係ない」と言う向きがあるが、それは間違い。2024年度のCM売上高のトップは同年度個人視聴率2位の日テレで約2327億円。CM売上高が1位だったテレ朝の約1743億円を上回っているが、これは40代以下に絞ったコア視聴率が日テレのほうが遥かに上だから。視聴率が社の浮沈を決めることに変わりはない。

 年度個人視聴率4位で人権侵害問題が今年1月に顕在化したフジの場合、2024年度のCM売上高は約1238億円。TVerなどによる配信広告収入は約84億円。フジに限らず、各局ともTVerの収入はCM売上高の10~20分の1以下にしかならない。放送ビジネスは視聴率が上昇しないと決して上向かないのだ。

 視聴率が獲れる番組をつくるためには一定の制作費が要る。ほかの製造業と同じだ。テレビ東京を除く各局は、プライム帯の1時間ドラマを約3000万円でつくっている。この中には俳優のギャラやスタジオ使用料、セットをつくるための美術費から、ロケ弁当代まで入っている。

 俳優のギャラに限ると、テレ東は他局の約3割安。制作費そのものも約3割安い2100万円程度。フジの近年のギャラは他局よりやや安いと芸能プロの間では言われていた。制作費が原則2000万円近くにまで下がると、ギャラの常識が根本から変わりそう。

 既にギャラ圧縮の方法は浮上している。その1つは5、6番手以下で出演する俳優の登場機会を減らす。たとえば全10回の連続ドラマなら、第1回と3回、5回、10回にしか出ないようにする。するとギャラは4回分しか発生しない。総支払額が減る。

 ただし、芸能プロダクションは渋面だ。「仕事の負担は軽減してもギャラが下がるのは困る」(芸能プロ幹部)。助演の俳優が同時期に他局の別ドラマにも出る掛け持ちが増えるだろう。

 俳優の独立が相次いでいるが、その理由にもドラマ界全体のギャラの伸び悩みがある。現在は各局とも5番手以下の俳優には1回10万円前後のギャラしか出していない。そこから芸能プロが3割強程度のマネージメント料を引くと、俳優には僅かな金額しか手元に残らない。

 だから、手取りを増やすため、主演、準主演クラス以外の助演俳優も独立が増えた。独立した助演俳優たちは翌日以降の収録場所の連絡を自らアシスタントプロデューサーたちと行う。主にLINEを使っている。

「収録場所への移動はマイカーかタクシー。確かに節約は出来るものの、新作ドラマの情報収集や売り込みは個人では難しいから、主演か準主演クラスじゃないと、独立は一長一短だと思いますよ」(別の芸能プロ幹部)

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