「平尾誠二」が逝った9年前の衝撃 「孤高、そして真面目で繊細」なミスター・ラグビーが愛唱した“納得の名曲”とは

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本人の意向で伏せられた病名

 最後に公の場に姿を見せたのは、4月に大阪で開かれた「毎日21世紀フォーラム」だったが、この頃から、大好きな神戸製鋼のグラウンドにも行けなくなる。容態が悪化し「京大病院がんセンター」に担ぎ込まれたのは9月に入ってからのことだ。母親の信子さんが振り返る。

「その時、息子に“あんたは親不孝やなあ”と怒ったんです。先に死ぬなんてという意味でね。そしたら息子は“その通りや”と笑うばかりでした」

 病名は当初、本人の意向で伏せられた。信子さんに聞いても、「派手なことは嫌いな子やから私も言わんことにしているんです」と口ごもる。だが、親族の1人によると、

「肝臓がんだと聞いています。お酒が好きな人やったから……」

 ラガーマンだけあって、酒の量は常人以上だが、平尾氏は酒に呑まれるようなタイプではない。だが、肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれているように、肝炎や肝硬変になっても顕著な自覚症状はない。そして、スポーツマンや体の頑丈な人ほど、異変を見逃してしまいがちなのだという。

「そのため、何かおかしいと感じた時には、がんが進行してしまっていることが多いのです」

 とは、秋津医院の秋津壽男院長だ。

性格は一言でいうと“孤高”

 厚生労働省の統計によると、肝臓がんによる死亡者数(2015年)は、すべてのがんの中でも4番目に多い。

「今年1月の姿を拝見する限り、普通の肝臓がんでは、あそこまで痩せ細るという事はありません。平尾さんは昨年9月に入院されているとのことですが、すでに肝臓と近接する膵臓や胆管などに転移が進んでいて手術が出来なかったということが考えられる。もう一つは、肝臓のなかでも胆管や肝動脈を巻き込む形でがんが出来ていた可能性があります」(秋津院長)

 転移が進むと複数の臓器で機能不全が起き、腹部や足がむくむ一方、身体はげっそり痩せてしまうのだという。後日、遺族から発表された死因は「胆管細胞がん」。肝臓がんの一種である。

 親しい知人にも告げず、病魔と闘った平尾氏は、最期まで自分の“プレースタイル”を貫こうとしたのだろうか。長らく付き合いのあったノンフィクション作家の早瀬圭一氏が言う。

「平尾君の性格を一言でいうと“孤高”です。そして真面目で繊細。一緒にカラオケに行くと、必ず甲斐バンドの“HERO”を歌っていたのを思い出します」

 日本のラグビー界を支え続けたヒーローを、あまりに早く我々は失ってしまった。

デイリー新潮編集部

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