中学生の娘の新しい友人“佐藤さん” そんな同級生は実在しない――正体に気づいた母の戦慄【川奈まり子の百物語】

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怯える娘

 その日を境に、娘は登校を拒むようになった。

 珠美さんが半休を取って教室まで付き添っても、早退してきてしまう。そこで、担任教師や学年主任に協力を仰ぎ、下校の時刻まで校内で待機させてもらった上で「何かあったらお母さんのところに走って来なさい」と娘を説き伏せると、なんとか早退せずに済んだ。

 娘によると、珠美さんが学校にいる間は「佐藤さん」が現れなかったそうだ。

 それから数日間、夫婦のどちらかが学校にいることにした。その結果、「佐藤さん」が娘の前に出てくることはなくなった。

 しかし、まだ安心できない――。そういった経緯で、珠美さんが「除霊やお祓いが出来る霊能者さんの知り合いを紹介して」と私に頼んできたのだ。

 インタビューから半年あまりが過ぎた今年5月下旬、珠美さんから久しぶりにメールが送られてきた。それによると、連休中に夫の実家の菩提寺に家族3人で出向き、加持祈祷を受けたということだった。

 その際、従姉について住職に相談をした。住職は従姉とその死児の御霊のためにも追加で護摩供養をし、「護符」を2枚くれたそうだ。

 1枚は珠美さんの家のため、もう1枚は従姉の家に貼るためだった。

返された護符

 従姉は、珠美さんから素直に護符を受け取った。

 拒否されるかもしれないと身構えていたのだが、むしろ感謝されたのだという。
 
 しかし、その翌週に何か変化があったか知りたいと思い、従姉にメッセージを送ると既読が付かず、電話にも出ない。

 心配して自宅を訪ねると、従姉は留守にしていた。そこから従姉と会えていない……と珠美さんは言っていた。

 あれから4か月。さすがにもう連絡は取れただろう。

 この稿を書き起こすにあたって、“従姉のその後”を珠美さんに問い合わせた。すると「あれから間もなく、従姉は行く先を告げずに引っ越した」という。私は暗い想像に誘われた。

「連絡も取れず、親戚一同、心配しています。仕事も辞めてしまったようですし。どこかで元気にしていると思いたいのですが……」

「従姉さんにあげた護符はどうなりましたか?」

「それが、うちのポストに入っていたんですよ。6月のことです。たぶんマンションを引き払った日に入れていったんだと思います。ポストに何も書かれていない封筒があって、開けてみたらあの護符が出てきました」

 護符の力で死んだ子の幽霊を祓われるのが嫌だったんじゃないかな……と小さくつぶやいた珠美さん。

「余計なことをしてしまいました。私がおせっかいを焼いたばっかりに……」

 と、珠美さんは後悔を口にした。

「亡くしたお子さんの幽霊を連れて、長い旅行をしているだけかもしれません。それとも、新天地で無事に暮らしていらっしゃる可能性もありますよ」

 こう言って私は慰めたのだが、本当にそうであってほしいものだと心から思う。

 ***

記事前半】では、従姉の異常な暮らしぶりと、珠美さんが“私”に心霊がらみの頼みごとをしてきた経緯が明かされている。 

川奈まり子(かわな まりこ)
1967年東京生まれ。作家。怪異の体験者と場所を取材し、これまでに6,000件以上の怪異体験談を蒐集。怪談の語り部としても活動。『実話四谷怪談』(講談社)、『東京をんな語り』(角川ホラー文庫)、『八王子怪談』(竹書房怪談文庫)など著書多数。日本推理作家協会会員。怪異怪談研究会会員。2025年発売の近著は『最恐物件集 家怪』(集英社文庫8月刊/解説:神永学)、『怪談屋怪談2』(笠間書院7月刊)、『一〇八怪談 隠里』(竹書房怪談文庫6月刊)、『告白怪談 そこにいる。』(河出書房新社5月刊)、『京王沿線怪談』(共著:吉田悠軌/竹書房怪談文庫4月刊)

デイリー新潮編集部

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