中学生の娘の新しい友人“佐藤さん” そんな同級生は実在しない――正体に気づいた母の戦慄【川奈まり子の百物語】

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【前後編の後編/前編を読む】娘を亡くしたはずの家に並ぶ真新しい絵本、子供靴、歯ブラシ… “開けてはいけない部屋”に触れられた母の豹変

 これまでに6,000件以上の怪異体験談を蒐集し、語り部としても活動する川奈まり子が世にも不思議な一話をルポルタージュ。 

 今回話を聞いたのは、埼玉県の某所で夫と娘と暮らす50歳の珠美さん(仮名)。近所に住む1つ年上の従姉には、珠美さんの子と同い年の娘がいたが、4歳の頃、不慮の事故で亡くなってしまう。夫と離婚し独り暮らしをしているはずの従姉の元に遊びに行くと、家には真新しい女児用のスニーカーや歯ブラシなどが置かれていた。異常を感じ従姉と距離を置くことにした珠美さんだったが、その後、娘の中学校の入学式で従姉と再会。が彼女は「うちの子と同級生だね」と告げるのだった……。

 ***

 珠美さんの旧姓と、離婚した従姉の苗字は同じだ。ここでは仮に「佐藤」とするが、中学生になった娘は、「佐藤さん」という同級生と親しく付き合いだした。

 珍しい苗字ではないから、最初は気にしていなかったが、ある日、珠美さんが帰宅すると、娘の部屋から会話の声が聞こえていた。

 娘の愉しそうな笑い声。娘が友だちを連れてきたのだろうが、すでに午後七時だ。

 夕食をご馳走するのはやぶさかではないが、親御さんの許可を取る必要があると思い、珠美さんは娘の部屋のドアをノックして声を掛けた。

「もうすぐ夕ご飯よ? お友だちのおうちの人に連絡した?」

 ドアの向こうが一瞬静まり、すぐに娘が「まだ!」と応えた。

 そしてヒソヒソと「まだだよね?」と友人に訊ねるのが聞こえた。

「もしかして佐藤さん?」とドア越しに珠美さんが訊ねると、娘が「うん」と言った。

 かねて噂の佐藤さんだと思うとにわかに親しみが湧き、好奇心も膨らんで、珠美さんは娘の部屋のドアをちょっと開けてしまった。

 すると、ベッドの上に1人で座る娘と目が合った。

「えっ? 佐藤さんは?」

「この子だよ?」

 娘が指差した先には誰もおらず、全身の毛が逆立つような心地を覚えて、「いないよ!」と言うと、「いるじゃん!」と即座に言い返された。

 その直後、肩に重い衝撃を感じて、珠美さんは後ろによろめいた。

「あっ、待って!」

 娘が言って、珠美さんを突きのけて部屋から走り出ると、そのまま玄関の方へ駆けていった。

実在しない “佐藤さん”

 珠美さんが気を取り直して玄関に行ったときには、娘はドアを開けて出ていくところだった。慌てて後に続く――と、ひんやりとした夜気が全身を包んだ。

 寒気に襲われてひるみつつ、娘が向かった方へ目を凝らすと、門の辺りに、街灯の明かりに照らされて2人の少女のシルエットが浮かんでいた。

 一方は娘だが、もう一方は真っ黒な影の塊のようで、細かなところが判然としない。

「じゃあ、また明日! ごめんね。お母さんが変なこと言って。……うん、わかった!」

 会話しているようなのに、耳に届くのは娘の声ばかり。

 この出来事を夫に話したところ、彼は「まずは同級生に佐藤という子がいるかどうか確かめてみよう」と提案した。

 すぐに名簿で確認してみると、1年生には佐藤という女の子が2人いたが、同じクラスには1人もいなかった。

 しかし娘に「佐藤さんは同じクラスの子?」と訊くと、「うん」とうなずくではないか。

 そこで珠美さんは直感した。あれは、従姉の娘の幽霊に違いない――。即座に娘に「佐藤さん」が実在しないことを切々と説いた。

「佐藤さんは多分、近所の従伯母さんの子どもだよ。本当はいないはずの子なんだ。だから、もう近づいちゃダメ。他の子たちと遊びなさい」

「……無視しろって言うの? そんなこと出来ないよ!」

 娘は目に涙を浮かべて抵抗したが、珠美さんがクラス名簿を見せて、「ほら。佐藤さんは本当はいないんだよ」と言うと、今度は一転して怯えた様子になった。

「怖い! だって、いたはずなのに! また話しかけてきたらどうしたらいいの?」

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