なぜ「家系ラーメン」を食べた人は饒舌になるのか? 誰もが“自己流の食べ方”を発信したくなる「自由度の高さ」という魅力
これまで数々のラーメン記事を読んできたが、執筆者の筆が最もイキイキしていると感じるジャンルが、横浜発祥の「家系ラーメン」である。Yahoo!ニュースのコメント欄を見ても、家系ラーメンの記事に対する各人の筆はイキイキとしている。どこの店はどこの出身である、といったウンチクが詳細に書かれており、活気があるのだ。【中川淳一郎/ネットニュース編集者】
【写真】見ると食べたくなる? 自由度が高いラーメンのジャンル「家系ラーメン」の姿
初めて行った家系
先日読んだ記事のコメント欄には「吉村家、本牧家、六角家に行ってからこんな記事は書け」というものがあった。いや、ラーメンの記事をエキスパートとしてYahoo!に書くほどのライターは当然それらには行ってるでしょうよ……とも思ったが、とにかく言いたいことが多いラーメンなのである。
「やはり(麺)普通、(味)普通、(鶏油)多め、でしょう!」
「ライスと追加の海苔も頼み、ライスにはキュウリの漬け物と豆板醤を載せ、スープに少し浸した海苔で巻いて食べる。家系ってもっともご飯に合うラーメンだと思う」
熱狂的ファンが多いジャンルは他にも「二郎系」「二郎インスパイア系」があるが、私は28年前に三田の本店に行き、粉砕された。「二郎道」の求道者が「押忍! 我は三段ッス!」という気持ちをプンプンと発散し、「このトーシローが、まだ注文しちゃダメなんだよ、チッ」のような視線を感じるのだ。実際「チッ」という舌打ちは聞こえたわけで、さらには注文時の謎の呪文と「ごちそうさまでした」以外の声が聞こえない緊張の空間にすっかりやられ、二郎関連の店に行ったのはその時だけ。
しかし、家系ラーメン店にはこれまでかなりの回数、足を運んできた。家系がなぜウマいのかを考えたら、味はもちろんのこと、とにかくラーメンの食べ方が自由で、店の雰囲気が大らかなのだ。総本家の吉村家については、あの大行列と「聖地巡礼」的な空気を目の当たりにして入ることはできなかったが、他は躊躇せず入れる。
初めて行った家系は、麻布の三の橋にあった「笑の家」である。1990年代後半、自転車で会社に通う途中であった。当時はラーメンブームで、石神秀幸氏や大崎裕史氏が名店をメディアでしきりと紹介していた。新宿「麺屋武蔵」、中野「青葉」、渋谷「喜楽」などが人気を博していた。
そうした店では出てきたものにせいぜい胡椒をかける程度だったのだが、笑の家に行った時、仰天した。まず、麺の固さとスープの濃さ、油の量を聞かれた。普通、濃い目、と言った後、ダメ元で「抜き」と言ったら「大丈夫ですよ~」と言われた。「お客さーん、油の量は『多め』『普通』『少なめ』しかないんですよ(呆)」となるかと思ったらそうならなかった。
もっとも好きなラーメンのジャンル
そしてカウンターについたところ、目の前には様々な容器が並んでいる。それまでラーメン屋で見たことがあるものは胡椒、おろしにんにく、一味唐辛子、酢くらい。笑の家のカウンターにはおろしショウガ、ごますり器、豆板醤まである。また、提供されたラーメンには、茹でたホウレンソウが載っかっていたが、これが滅法スープと麺に合う! 醤油味に豚骨のコクが絶妙に絡み合う初めて口にする味で、まだ1割程度しか食べていない段階でリピートを決めた。
こりゃウマ過ぎる、ということで食券機に行き「レン草増し」ボタンを押し、ホウレンソウを追加した。とんでもない量が入っており、そうなると、全体がアッサリとして味も薄くなる。そこで試しに豆板醤をホウレンソウに載せ、一部取ったものを一瞬スープに落とす。蓮華にスープと麺1本、豆板醤付きホウレンソウを載せて食べたら味の濃さが戻るとともに、辛さが追加された。ここにはおろしショウガも合うのでは、と二杯目の蓮華には、ショウガも追加したが、これは味を爽やかにする効果があった。
その後、様々な家系の店に足を運ぶなか、毎週行くようになったのが、現在は渋谷が本店の「侍」の池尻大橋店である。家から近いためだったが、とにかく毎週土曜日は11時の開店と同時に入り、発泡酒の「淡麗」を飲みながらラーメンを待つ。笑の家よりもさらに濃いスープにすっかりハマり、私にとって家系ラーメンはもっとも好きなラーメンのジャンルとなった。この店では「6・3・1」とホウレンソウ増しを頼んだ。6=海苔の枚数、3=チャーシューの枚数、1=味玉だ。
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