プロ入りなるか 味噌カツ屋の元店員、上智大のエース…“変わり種選手”がドラフト戦線に浮上した!
ドラフト会議は10月23日に行われるが、今年は強豪チームに加えて、意外なルートから“変わり種選手”がドラフト戦線に浮上している。今回の記事では、1年前は味噌カツ店で働いていた投手や日本の高校野球を経験していない上智大のエースなど、4人のドラフト候補にスポットを当てる。【西尾典文/野球ライター】
【写真】味噌カツ屋、上智大、独立リーグ…意外なルートから「プロ入り」が期待される4人の注目選手たちの姿
どの球種を投げても変わらないフォーム
筆頭格は、社会人野球・王子の右腕である九谷瑠(くたに・りゅう)だ。滋賀県立堅田高校のエースとして、3年夏の大会でベスト8に進出したが、全国的には無名だった。高校卒業後、近畿学生野球の二部リーグに所属する大阪大谷大に進学した。大学時代はスカウト陣からドラフト候補として名前を聞かれることさえなかった。
社会人野球の企業チームから声がかからなかった九谷は、味噌カツ専門店「矢場とん」(本社・名古屋市)に入社し、同社が運営する社会人クラブチームである「矢場とんブースターズ」でプレーを続けた。
入社2年目に、眠っていた才能が開花する。エース格に成長すると、ストレートは150キロを超えるまでにスピードアップした。これにより、東海地区の社会人野球関係者の間で認知度が上がり、今年から社会人野球の強豪である王子へ移籍した。
全国大会で九谷は躍動した。9月の都市対抗野球では、先発2試合、ロングリリーフ2試合というフル回転の活躍で、チームを21年ぶり2度目の優勝に導いた。九谷自身も、橋戸賞(最優秀選手賞)を受賞した。前年までクラブチームでプレーしていた選手が企業チームに移籍し、いきなり橋戸賞を受賞するのは前例がない。
その魅力は、スピードボールに加え、制球力とスタミナの高さである。前述の都市対抗野球の決勝戦では、前日の準決勝で4イニングを投げたにもかかわらず、コントロールは全く乱れなかった。最終回に151キロをマークするなど、4回を被安打1、四死球0、無失点というほぼ完ぺきな投球を披露した。
カーブをはじめ、スライダーやカットボール、チェンジアップといった多彩な変化球を駆使し、様々なパターンで打者を打ち取ることが可能だ。
九谷を視察したパ・リーグ球団のスカウトは、次のように語る。
「どの球種を投げても、フォームが変わらないですね。ストレートは、球速が落ちずにベースの上で力強さがある。走者を背負ってもスピードや制球力が落ちず、相手の打者をよく観察しながら投げているように見えます。26歳と年齢は高いものの、(社会人野球の強豪チームのような)きちんと整備された環境でプレーし始めたのが、今年からと考えると、成長の余地はあるでしょう。九谷もプロ志向が強いようなので、ドラフト指名を検討する球団も出てくるのはないでしょうか」
上智大からNPBは史上初
今年の社会人投手は即戦力として期待できるドラフト候補が少ないと言われているため、九谷にとってはプロ入りへの追い風になりそうだ。1年前に味噌カツ店のホールスタッフだった男が、ドラフト指名を受けるのは夢物語ではない。
続いて、取り上げる選手は、上智大のエース、正木悠馬だ。出身は神奈川県。父親の仕事の都合で中学2年の時に渡米した。高校時代はワシントン州のレドモンド・ハイスクールでプレーした。その後、上智大の海外就学経験者(帰国生)入学試験を受験し、経済学部経営学科に合格した。
名門私大として知られる上智大だが、スポーツ推薦がなく、野球部は強くない。現在、東都大学野球の三部リーグに所属している。
正木は、1年秋のリーグ戦から投手陣の一角に定着した。筆者が彼のピッチングを初めて見た試合は、2年春の三部・四部入替戦(※当時、上智大は四部)だった。最速145キロをマークするなど、力強いボールを投げていた。その後、正木は成長を続け、今春のリーグ戦では最速153キロを記録したとのことだ。
9月9日の秋季リーグ戦の帝京平成大学戦で、2年ぶりに現地で投球を確認したところ、筆者のスピードガンで最速150キロを計測し、平均球速は145キロを超えていた。
正木を視察したことがある東都大学野球担当スカウトは、次のように語る。
「ボールが暴れるため、良いボールは5球に1球程度ですが、時折、目を見張るようなボールを投げますね。体つきはしっかりとしており、フォームを見ると体にバネがあるのがわかります。まだ漠然と速いボールを投げているだけなので、育てる時間を要すると思いますが、素材型として面白い投手だと思います」
上智大からNPBに進めば、史上初となる。日本の高校野球を経験していない帰国子女は大きな夢をつかむことができるだろうか。
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