ウクライナ戦線でトヨタ「ランドクルーザー」が脚光を浴びる意外な理由 物資の限られた戦場では「戦車より使い勝手がいい」と評価されることも

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 ウクライナの最前線でトヨタの四輪駆動車・ランドクルーザーが大活躍している。それも単に兵士や物資を運ぶだけではない。武器を搭載し、ロシア軍を攻撃する“兵器”としても使われているのだ。なぜランドクルーザーは戦場で「場合によっては戦車より使い勝手がいい」と高く評価されているのか、専門家に聞いた。(全2回の第1回)

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 軍事ジャーナリストは「どのランドクルーザーも世界的な人気を誇っていますが、軍事関係のニーズが特に高いのはランドクルーザーの“70”という車種です」と言う。

「ランドクルーザー70は1984年から販売されているロングセラーです。日本では2015年から設けられた『新保安基準』に対応できないことなどの理由で生産中止と再販売を繰り返したことがあります。一方、海外ではポルトガルやベネズエラの工場などで生産され、全世界で販売されています。ただし、お世辞にも乗り心地の良い車ではありません。最新のトヨタ車より劣る部分もたくさんあります。しかし、それでも軍事関係者から重宝されるのは、いくつかの理由があるのです」

 まずは故障が非常に少ないことだ。ただ、これは全ての日本車に共通する評価だろう。ランドクルーザー70だけが壊れないわけではない。

「特筆すべき点として、70には“余計なものが付いていない”ということが挙げられます。戦場における車の酷使ぶりは、平和な世界に住む人間にとって想像の範囲外と言えます。いくらランドクルーザーが頑丈でも敵軍の猛攻を受ければ壊れてしまいます。ここからがランドクルーザー70の実力が発揮されるポイントです。約40年間、世界中に販売されてきた車なので、どんな僻地で壊れたとしても新品か中古の交換部品が手に入るのです」(同・軍事ジャーナリスト)

ローテクのメリット

 さらに衝突被害軽減ブレーキ、車間距離制御装置、車線逸脱警報装置といった、最先端の支援システムとも無縁の車だ。

「約40年前と基本設計は変わっていませんから、高価で特殊なデジタル部品などは使われていません。物資の極めて限られた最先端の戦場であっても整備や修理が可能です。一方の戦車は故障が多く、交換部品を輸送できる兵站が確保されていないと整備や修理に支障を来します。何よりも免許を持っていない兵士でも簡単な練習をすればランドクルーザーを運転することが可能です。これに対し、戦車の運転には特別な訓練が必要です。都市部でのゲリラ戦ともなると戦車は視界が悪く、キャタピラなどを歩兵に破壊される可能性が上昇してしまいます。ランドクルーザーは視界が広く、ガレキの街を高速で走り抜けることが可能です」(同・軍事ジャーナリスト)

 これほどの高性能を軍事産業が見逃すはずがない。一部の会社はランドクルーザーをベースにした“兵器”を開発している。

「スペインの軍事企業はランドクルーザーを改造して『自走120ミリ迫撃砲』を製造しています。改造されたランドクルーザーが停車すると、自動で迫撃砲が地面に設置され、砲弾をセットして発射まで1分もかからないというCM動画がネット上で確認できます」(同・軍事ジャーナリスト)

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