「ある条件」に当てはまらない限りは日銀の「年内利上げはない」とエコノミストが読む理由
9月のFOMC(米連邦公開市場委員会)において、FRB(連邦準備理事会)は昨年12月以来、約9カ月ぶりとなる25bp(1bp=0.01%)の利下げを決めた。マーケットの注目は、アメリカが年内にあと何回の利下げを継続するかと、日銀が年内利上げを実施するのかどうかに移っているが、その動向はなお不透明だ。みずほリサーチ&テクノロジーズのエグゼクティブエコノミスト・門間一夫氏に日銀の「利上げの判断基準」について聞いた。
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「利上げで物価安」は間違い
よく、日銀など各国の中央銀行の役割は「物価の番人」という風に言われます。それは、金利の上げ下げによって物価をコントロールできるから、という前提に立つわけですが、実はそれは正確ではありません。
と言うのは、金利がまず影響を及ぼすのは「景気」であるためです。利上げが行われた場合、企業では設備投資などの資金調達コストが増え、家庭では住宅ローンの金利が上がって住宅を購入しにくくなるなど、景気にブレーキをかけることになります。
そうして景気が冷えると、世の中では需要が落ちこむため、企業は価格を下げないとモノやサービスを売ることができなくなってしまい、結果的に物価が下がっていきます。
言い換えれば、金利を上げるということは「多少景気を悪くしてでも物価を下げよう」という判断だということです。
金融政策の目的は、最終的には「物価の安定を保つ」ことにありますが、金利の上げ下げで調節をすると、必ず景気にも影響が出てしまいます。つまり、単純に物価だけを見るのではなく、現在の景気の状況や、今後の景気への影響を見定めることも、金融政策を考えるうえでは非常に重要なのです。
こうした観点で考えた場合、今の日本の景気は、悪くはないですけれど、それほど良くもないという状況です。
さらに判断を難しくしているのが、「トランプ関税」です。関税をかけると、ブーメランのようにアメリカの調達コストが上昇し、結果的にアメリカの景気が悪化するのではないか、という指摘があるわけです。
実際にアメリカでは雇用の悪化が兆候として出てきています。アメリカの中央銀行にあたるFRBが利下げを決めたのも、雇用がさらに悪化していく可能性を懸念しているからなのです。
アメリカは世界最大の経済大国ですから、その景気が減速すれば日本を含む世界全体に影響が及びます。しかし、関税の影響でアメリカ経済がどれぐらい弱くなるかが、まだはっきりとは見通せません。その確認には今後数カ月はかかるだろうと見ています。
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