野田洋次郎が出るドラマにハズレなし! 今回は“逃亡中の指名手配犯”に

  • ブックマーク

 野田洋次郎が出るドラマにハズレなし、とそろそろ断言してもよかろう。軽度の精神障害を持ち、殺人事件の容疑者として逃亡中の役というので興味津々。初回は登場場面も少ないが、感情ゼロの無表情が想像以上に多くを語る。芦沢央原作ドラマ「夜の道標(どうひょう)」の話だ。

 野田が演じるのは阿久津弦。彼が小学6年から高校3年まで通っていたのは、障害や特性がある子供のための学習塾。経営する講師の戸川(宇野祥平)は人格者で、悩む親たちから信頼されていた。ところが1996年、戸川が殺される事件が起きた。目撃証言から教え子だった阿久津が容疑者として浮上するも、こつぜんと姿を消す。指名手配犯となったが手掛かりのないまま、2年が経過。未解決事件で専従捜査員もいないこの事件を任されるのが、古参刑事の平良正太郎。演じるのは滋味が増してきた吉岡秀隆。

 平良は以前、大物政治家の身内が起こしたいじめ暴行事件を示談にするよう命令されたが、頑として従わなかったため、今は閑職に追いやられ、上司(和田正人)から嫌味を言われ続けている。強盗事件が多発し、署内は疲れ切っている中、平良はこの未解決事件の捜査を押し付けられる。バディを組むのは新人。元交通課、念願の刑事になって鼻息の荒い若手・大矢啓吾(高杉真宙〈まひろ〉)だ。下調べは完璧、前のめりで捜査に挑む大矢と、事件の動機を慎重に探ろうとする平良。この二人捜査班、派手さやけれん味がなく、実直な感じがいい。

 が、2年前の事件を再捜査するも、目撃者や関係者の聞き込みは容易ではない。その様子を丁寧に描くことで、事件の難しさを表現。

 阿久津の母親(キムラ緑子)は心を病み、話ができる状態ではない模様。被害者への復讐が目的とにらんだ二人は、塾の生徒や親(瀬戸さおり)に話を聞くも、戸川への厚い信頼という壁は高く、障害を持つ子供や元生徒(大村わたる)から真実を聞き出すのは困難でもあり。困難といえば、平良の息子も引きこもり始めたようで、妻(映美くらら)は疲弊している様子。仕事も家庭も地味に難航中の中年刑事に、つい感情移入してしまうな。

 で、刑事の視点だけではない、心ざわつく展開も興味深い。一見、事件とは関係のなさそうな人々がいる。

 まず、スーパーで働く長尾豊子(瀧内公美)。実家と思われる広い家に住み、職場でもご近所さんにも、家族の世話をする体を装うが、実は両親は既に他界。売れ残りの総菜を持ち帰るが、なぜか2人前。徐々に見えてくる彼女の秘密。もうお分かりですね。地下室に阿久津をかくまっているのだ。

 もう一人。バスケが上手な小学生男子・橋本波留(小谷興会)。物静かだが心に闇を抱えている。いや、闇ではなく有害な父(吉岡睦雄)だ。波留は走ってきた車にわざと飛び込み、父が示談金というか慰謝料をせしめるアタリ屋父子なのだ。

 今後、この悪しき父と哀しき息子と阿久津に接点が生まれ、警察が諦めて蔑ろにしてきた事件が動き出す模様。誰の罪が暴かれるのか、裁かれるべきは誰なのか。結末が気になる作品だ。

吉田 潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2025年10月2日号掲載

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。