「悪役」と「素朴」の強烈なギャップ バラエティで引っ張りだこ「上谷沙弥」は女子プロレスの救世主か

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唯一無二のキャラ

 9月21日放送回では、上谷が再び「女子300m走サバイバル」に挑んだ。ここでも上谷は善戦したが、惜しくも途中で敗退してしまった。レース後は再び涙を流し、仲間のレスラーに励まされていた。悪役レスラー同士の友情を感じさせるこのワンシーンも話題になっていた。

「千鳥の鬼レンチャン」に出演したことで、悪役レスラーなのに涙もろくてかわいげのある女性、という唯一無二のキャラクターを確立。その後はどんどんテレビの仕事が増えていった。「ラヴィット!」では、悪役レスラーでありながら、情けない姿をさらしたり、泣き出したり、かわいいところを見せたりした。そのすべてにギャップがあって魅力的に感じられた。

 彼女はもともとアイドルを目指していたのだが、100回以上もオーディションに落ち続けて、挫折を味わっていた。その中で唯一受かったのが、プロレス団体が主催するアイドルグループのオーディションだった。そこでアイドルとして活動を始めるも、わずか7か月でグループは解散。そこから彼女はプロレスラーに転身することになった。

 最初は望んでいない仕事だったが、真剣に取り組むうちにプロレスラーとしての自覚が芽生えてきた。そして、プロレスを世の中に広めたい、もっと多くの人に見てもらいたい、という使命感を持つようになった。バラエティ番組に出ているのも、プロレスを広めたいという純粋な思いがあるからだ。

 彼女の言葉や行動には嘘がない。全力でプロレスに向き合い、まっすぐに生きて、感情をすぐにさらけ出す。その純粋さが多くの人にはまぶしく映っていて、魅力的に感じられている。

 Netflixのドラマ「極悪女王」で描かれた1980年代には、女子プロレスの熱狂的なブームがあった。しかし、その後、女子プロレスは一部のファンの支持にとどまっていて、国民的な人気は得られていない。そんな中で、上谷の純粋な情熱と強烈な個性は、女子プロレスの未来を変える大きな原動力になりつつある。

ラリー遠田(らりー・とおだ)
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)など著書多数。

デイリー新潮編集部

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