「鬼滅」「呪術」はむしろ例外…深夜アニメで“作画崩壊”が頻発するのはなぜか 「アニメはコスパがいい」「絵が動けばそれで十分」という考えが蔓延する背景
筆者は夜間にテレビ番組を流しながら原稿を書くことがあるが、近年の深夜アニメにはクオリティーが極端に低いものが散見される。特に“異世界転生もの”や“ラブコメもの”のアニメに多いのだが、奥行きもないペラペラでパースがちゃんと取れていない建物の背景が登場したと思えば、明らかな色の塗り間違いがあったりするのだ。びっくりしたのは、キャラの影が“直線”で塗られていたアニメである。
大ヒットした「鬼滅の刃」や「呪術廻戦」の高いクオリティーを見ると、日本のアニメは世界に誇る文化だと思うだろう。しかし、実態はと言えば、背景のモブだけでなく主人公も動かない、静止画のようなアニメが大量に制作されているのだ。それは効果や演出ではなく、明らかな予算不足、そして人手不足に起因する深刻な作画崩壊である。
一昔前によく聞かれた作画崩壊は“キャベツが球体のように見える”などで、どこか、クスッと笑えるものだった。しかし、最近の作画崩壊はただ質が低いだけで、笑えないのである。【文・取材=山内貴範】
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アニメファンも評論家も見ていないアニメ
こんなアニメを一体誰が見ているのだろうと思ってSNSを開いてみると、さらに驚いてしまう。アニメが話題になっていないのである。金曜ロードショーで放送されるスタジオジブリのアニメのように、人気作であれば、リアルタイムで視聴者がネットに書き込みを行うのが定番だ。しかし、深夜アニメはXのポストが1個くらいしかないものもある。
おそらく、ほとんどの視聴者がリアルタイムで見ていないのであろう。リアルタイムどころか、動画配信サイトでもほぼ視聴されていない可能性が高い。作画崩壊が深刻であるにもかかわらず議論にすらなっていないのは、おそらくアニメ評論家やアニメライターも見ていないため、問題にもならないのだ。
昨今、「アニメの制作本数が多すぎる」という意見が聞かれる。日本動画協会の報告によると、2003年に年間189本だったテレビアニメのタイトル数は、増減を繰り返しつつ、2023年には300本となっている。YouTubeやTikTokで流されるアニメが増えたため、アニメ全体の本数はさらに多い可能性もある。
異常なほどのアニメバブルであるが、弊害も少なくないようだ。WEBでアニメのレビューを書いていたライターがこう打ち明ける。
「アニメの本数がとにかく増えすぎた。昔ならば、放送中のアニメをすべて見ているようなオタクは普通にいたんです。しかし今は、10倍速にしても、移動中に動画配信サイトで視聴しても物理的に不可能なくらい、アニメが増えすぎています。そのうえ、公式が“推し活”を煽り、ファンに向けてグッズを出し過ぎている。お金がかかりすぎて、ファンが追いかけられなくなっているのです」
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