「鬼滅」「呪術」はむしろ例外…深夜アニメで“作画崩壊”が頻発するのはなぜか 「アニメはコスパがいい」「絵が動けばそれで十分」という考えが蔓延する背景

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似たり寄ったりのアニメを生み出す前例踏襲主義

 今や、アニメは世界に向けた輸出産業と言われている。その市場規模は3兆円を超えているとされ、様々な企業がアニメ制作に乗り出してきている。しかし、一部の人気作を除けば、とても世界に輸出できるレベルではないのが実情だ。というのも、新しくアニメに参入してきた企業は、とにかく数を作り、どれか1本が当たるのを待てば良い――という感覚のところが少なくないためだ。

 だが、社会現象になるヒット作は、大手や老舗の出版社が関わる作品ばかりである。いったいなぜなのか。大手出版社の編集者がこう指摘する。

「世の中に異世界転生やラブコメのアニメばかりが多いのは、結局、プロデューサーが前例踏襲主義だからだと思います。過去に類似のヒット作があるものは企画が通りやすい。特に、新規参入したIT系の企業はデータを重視する傾向があるため、前例がない企画が通りにくく、似たような作品ばかりになりがち。対して、昔ながらの大手の方が前例のない企画を通せたりするし、それがヒットしているのです。

 それでいて、IT系はお金を出しません。低予算アニメになってしまうのはそのせいです。その手の企業がアニメに参入するのも、ひとえに“コスパがいい”ためです。確かにドラマを制作したり、ゲームを制作したりするよりも安上がりだし、お金だけ集めればアニメ製作会社に丸投げできる。合理性を求める企業にとって、アニメほどラクチンなコンテンツビジネスはないのです。そこにはクリエイターへのリスペクトが存在しません。

 また、小学生など低年齢向けの新作アニメがなかなか立ち上がらないのは、メディアミックスが難しいと考えられているためです。対して、異世界物やラブコメはキャラクターが多いため、グッズ展開がしやすいんですよ。かわいい女の子やイケメンでも登場すれば尚更です。“推し活”ブームが叫ばれるなか、アニメは極端なまでの商業主義化が進んでいると思います」

消費者がすぐ飽きる、アニメの構造的問題

 この編集者の発言からもわかるように、企業がアニメに熱心なのは、ひとえにコンテンツビジネスを推進するためである。アニメが当たればグッズ化などの依頼が続出し、版権使用料で稼ぐことができるのだ。それ自体は、手塚治虫が制作した日本初のテレビアニメ「鉄腕アトム」の頃から受け継がれる、日本のアニメを象徴するビジネスモデルである。

 言ってしまえば、アニメの伝統を継承しているわけだが、その風潮を冷ややかに見る人もいる。「現代のアニメは、かつてよりもコンテンツビジネスが行いにくい」と話すのは、1980~90年代にアニメとコラボした商品を売り出していた、大手食品企業の関係者である。

「昔のアニメは人気があれば、毎週途切れずに放送されていましたが、今のアニメは基本的に12話くらいでいったん完結してしまいます。人気が出れば2期が放送されるのですが、それまでに1~2年のブランクがある。次々に新作アニメが出るためコンテンツの消費スピードも速く、消費者から本当にすぐ飽きられる。だから、企業も腰を据えてじっくりと商品を作ることができないんですよ。

 1980~90年代はアニメスタジオに新規のイラストを描き下ろしてもらったりして、凝った商品を作れました。今はそんなことをやっている時間がない。ネットでバズったらいち早く商品を出さないといけないので、キービジュアルに使われたイラストを袋にプリントして終わりです。それでも売れるので我々も文句は言えないのですが、タイミングを誤ると在庫を抱え、大変なことになるリスクも大きいのです」

 この関係者は、昨今のアニメを「バーッと盛り上がって、一気にしぼむ。デイトレードで使われる新興株のようなものですね」と語ったが、言い得て妙である。ディスカウントストアに行くと、アニメグッズがワゴンに山積みになっていて、投げ売りされている光景を目にする。しかも、わずか1か月前まで放送していたアニメのグッズだったりすると、悲しくなる。作品の寿命を延ばすことはできなかったのだろうか。

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