なぜ今、「行列のできる相談所」が復活? 「明石家さんま」に司会を託した日テレの狙い

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強い影響力

 第三に、「行列」という番組の影響力の大きさに期待がかかっている、ということだ。23年間にわたってレギュラー放送されてきたこの番組からは多くの人気者が輩出されている。その代表格と言えるのが、番組内で「史上最強の弁護士軍団」と呼ばれていた現役の弁護士たちである。彼らは単なる法律解説者にとどまらず、それぞれが強烈な個性を発揮することで番組を盛り上げていた。意見が分かれると、お互いを激しく罵り合ったりすることもあった。北村晴男、丸山和也、住田裕子、橋下徹といったメンバーが、この番組をきっかけにタレントとしても売れっ子になっていった。

 しかも、彼らの勢いは芸能界だけにとどまらなかった。丸山は2005年の「24時間テレビ」でチャリティマラソンのランナーを務め、のちに参議院議員になった。橋下は大阪府知事、大阪市長を歴任し、政界の風雲児となった。丸山や橋下に比べるとおとなしく見えた北村も、今年7月に日本保守党から出馬して当選を果たし、参議院議員になった。「行列」レギュラーの弁護士タレントは、それぞれが番組の外にも波及するほどの強烈な存在感を持っている。

 現在放送されているバラエティ番組の中でも、これほど世の中に対する強い影響力を持っている番組は見当たらない。テレビを見ない人が増えて、テレビ全体の影響力が下がっていると言われる中で、「行列」のブランド力は桁違いのものがある。特番という形で復活することで、ここから世の中を騒がせるような話題作りをして、トレンドを牽引するものを生み出したい、といった制作意図もあるのではないか。

 このように考えると、「行列のできる相談所」の特番復活は単なる懐古企画ではない。複数の要素が絡み合った「戦略的な復活」である。もし今回の特番が成功すれば、レギュラーとして復活する可能性もあるし、スピンオフ的な企画が新たに立ち上がることもあるかもしれない。

 結局のところ、9月26日の特番は「今のテレビが世の中にどんな影響を及ぼせるのか」を示す試金石になる。さんまという稀代のトークモンスターを据え、伝統ある番組ブランドを再生させるこの試みは、テレビの将来を占う実験でもある。やや大げさに言えば、「行列」にはテレビの未来が託されているのだ。

ラリー遠田(らりー・とおだ)
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)など著書多数。

デイリー新潮編集部

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