撮影現場に現れず、自宅で… 「土方歳三役で右に出る者はいない」と言われた栗塚旭さん “名優”であり続けた生涯【追悼】

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 物故者を取り上げてその生涯を振り返るコラム「墓碑銘」は、開始から半世紀となる週刊新潮の超長期連載。今回は栗塚旭さんを取り上げる。

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“当たり役”に甘えず

 幕末の京都で倒幕派を取り締まった浪士集団、新選組。その「鬼の副長」土方歳三を演じさせれば、右に出る者はいないと絶賛されたのが、栗塚旭(あさひ)さんである。

 1965年、現在のテレビ朝日で放送された司馬遼太郎原作「新選組血風録」で主役の土方役に抜てきされる。組織をまとめる冷酷さと隊士への思いやりを合わせ持つ姿が視聴者の心を揺さぶった。さらに「燃えよ剣」(70年)で土方をより鮮烈に演じ、喝采を博す。

 両作は新選組を映像化した多くの作品の中でも最高傑作と並び称され、番組の再放送により今なお新しいファンが生まれている。

 栗塚さんと同じ京都在住で、近年の出演映画「太秦ライムライト」(2014年)や「葬式の名人」(19年)で脚本とプロデュースを担った大野裕之さんは言う。

「自分が演じた土方を受け入れてもらえて役者冥利に尽きるとおっしゃっていた。土方像を確立した自負はお持ちでも、土方の人間的魅力のおかげだと謙虚でした。当たり役の印象が強過ぎて役の幅が狭くなるとは考えず、土方役で顔を覚えてもらったと感謝していた。土方のためならと関連のトークショーや行事にも参加。ニヒルな土方役とは反対に気さくで明るく話好きです」

「実直さが新鮮」と評価

 37年、札幌生まれ。中学卒業までに両親を病気で亡くした。兄夫婦に迎えられ京都に移る。府立洛北高校を卒業、毛利菊枝さん主宰の劇団「くるみ座」に入り、新劇の舞台に出演する。

 映画の斜陽化に伴い設立された東映京都テレビ・プロダクションから「新選組血風録」の主役が舞い込む。ほぼ無名ながらも実直さが新鮮だと推したのは、名脚本家の結束信二さんだった。

 土方役で一躍人気者となると松竹から映画出演を請われた。岩下志麻や三田佳子の相手役を務めるスターに。多忙で集中できないと、仕事を避けた時期もある。京都の哲学の道近くにある自宅の一角で72年から喫茶店を営み、店によく現れた。

 78年開始の「暴れん坊将軍」では準レギュラー役で20年近く出演。2004年のNHK大河ドラマ「新選組!」で土方の兄、為次郎役で話題に。翌年には映画「二人日和」で難病が進む藤村志保さん演じる妻をみとる役で新境地を開く。

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