撮影現場に現れず、自宅で… 「土方歳三役で右に出る者はいない」と言われた栗塚旭さん “名優”であり続けた生涯【追悼】

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静かに包み込むような温かさのある演技

 インタビューした映画評論家の北川れい子さんは、

「年を重ねてこういう役が来て光栄ですと語っていた。静かに包み込むような温かさのある演技でした」

 役者を続けられることを幸せに感じていた。

「脚本を読み込み何が求められているか考え抜いていました。僧侶役の時、お願いしていないのに頭をそって現れて驚いた。監督や脚本に注文をつけることなどなく、ロケ先への車での送迎も遠慮された」(大野さん)

 土方は特別な存在であり続けた。子孫と交流を続け、仏前に手を合わせている。

「(22年に)子供たちが運動で体を痛めないよう整形外科医の監修で啓発映像を作ることになり、土方歳三から“肘肩腰三”なる人物を考えました。失礼と思いつつ栗塚さんに相談すると、面白いと大喜びして下さった。当然、一番良い衣装を用意したところ、パロディーなのに近藤勇局長が一番でなければと真剣におっしゃり、映像でも真ん中に立たない徹底ぶりでした」(大野さん)

 生涯独身。毎日のように映画館に出かけていた。

 時代劇専門チャンネルの「三屋清左衛門残日録」に16年以来出演。シリーズ最新作の撮影に現れず、警察に連絡し自宅を訪ねたところ亡くなっていた。事件性はなく、9月9日に病死したとみられる。享年88。

「昨年末から今年にかけて撮影した映画を完成した形でお見せできなかった。映像の一部を御覧いただいた時、生きた証しになるとおっしゃった。役者は現場に臨み作品を作り続けなければとの自戒、覚悟があった姿は、ぶれない土方の生き方と重なります」(大野さん)

週刊新潮 2025年9月25日号掲載

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