「大沢たかお祭り」はエンタメか、集団的悪ノリか 上戸彩は「イラッ」…本人は意外な反応

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節度を持って楽しむ

 一方、大沢本人の受け止め方は異なっていた。彼は次のように答えている。

「世のお母さんたちが、僕や王騎将軍の表情を使って、日常で思うことやつらいことを笑いに変える。それもひとつのエンターテインメントだと思うんです」

 さらに、王騎将軍というキャラクターはユーモラスさを兼ね備えているからこそ、そうした投稿が人々の心に響いたのではないか、とも付け加えた。つまり彼は、作品の外で自分の演じた役が思わぬ形で受容されたことを、むしろ肯定的に受け止めていたのである。

 この2人の反応は、ネット文化をめぐる複雑な問題を象徴している。まず、こうした「祭り」は本質的に「集団的な悪ノリ」の延長線上にある。映画のワンシーンを無断で切り抜き、SNSに投稿することは著作権法で定められた権利を侵害する可能性があり、決してクリーンな行為ではない。また、制作者たちが込めた文脈を無視して場当たり的に笑いに使うことは、作品や役者に対して敬意を欠く行為と捉えることもできる。上戸のように否定的な感情を抱くのは自然だ。

 しかし一方で、大沢のように「自分の知らないところで勝手に盛り上がっているもの」と割り切り、その存在をエンターテインメントの一形態として受け入れる立場もある。いずれにしても重要なのは、ネットのユーザーが「本人が好意的だからもう問題ない」などと短絡的に考えてはいけないということだろう。この種の遊びは常にグレーゾーンにあり、法的・倫理的リスクをはらんでいることを認識した上で、節度を持って楽しむ必要がある。

「大沢たかお祭り」は、ネットが生み出す即興的なユーモアの一例であると同時に、芸能人をミームとして消費することの功罪を浮き彫りにした現象でもあった。大沢はその渦中にあっても、王騎将軍さながらの懐の深さを見せて、「本物の英雄は大沢たかお自身だった」という事実を示したのだ。

ラリー遠田(らりー・とおだ)
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)など著書多数。

デイリー新潮編集部

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