「敬遠合戦」や「ずる休み」より大きな価値あり! 不利な条件でも、最後まで出場してタイトルを勝ち取った名選手列伝

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 シーズン終盤の個人タイトル争いといえば、露骨な敬遠合戦や残り試合を休んで逃げ切りを図るなど、ファンが素直に祝福するのを躊躇うようなものも少なくない。その一方で、ケガを押して強行出場したり、休むことなく最後まで出場した結果が吉と出て、タイトルに価値ある彩りを添えた、ポジティブな選手も存在する。【久保田龍雄/ライター】

三振かホームランでいいからな

 肉離れで「今季絶望」とされながら、強行出場した試合で代打満塁本塁打を放ち、初の本塁打王に輝いたのが、オリックス・T‐岡田だ。

 2010年、プロ5年目の岡田は、8月22日のロッテ戦でいずれも同点弾となる2本塁打を記録し、シーズン前の目標だった30本塁打を実現。その後、9月3日までに2本上積みし、本塁打王のタイトルも見えてきた。

 だが、好事魔多し。9月8日のロッテ戦でフェンス直撃の安打を放ち、二塁を狙った際に左太もも裏肉離れを発症。全治6週間と診断され、残り15試合の出場は絶望的となった。

 この時点で2位・多村仁志(ソフトバンク)に7本差をつけ、よほどのことがない限り、タイトルは確実と思われたが、野球は何があるかわからない。

 そんな不安を払拭すべく、岡田彰布監督は登録抹消せず、「三振かホームランでいいからな」と、ここ一番での代打要員として岡田をベンチ入りさせた。

 そして、負ければ優勝の可能性が消滅する9月16日の西武戦、8回にカラバイヨのタイムリーで3対3の同点に追いついたオリックスは、なおも2死満塁のチャンスに、「代打・岡田」が告げられる。

「どこに打っても走らんでええ」と岡田監督に送り出された22歳の若き主砲は、スタンドの大歓声を受けて、カウント2-0からグラマンの3球目をフルスイング。快音を発した打球は、決勝満塁本塁打となってスカイマークスタジアムのバックスクリーン左に飛び込んでいった。

 痛みが残る足に負担がかからないように、ゆっくりダイヤモンドを1周したヒーローは「(この数日間)ベンチで試合を見てて、出たい気持ちとケガした自分への苛立ちで歯痒かった。何とか貢献できて良かった。今日は興奮して寝るのが遅くなるかも」と喜びを爆発させた。

 結果的にこのシーズン33号がモノを言って、山崎武司(楽天)に5本差で、王貞治以来48年ぶりとなる22歳の本塁打王が誕生した。

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