朝ドラ「あんぱん」主人公はなぜ、妻? 「やなせたかし」ではない理由と好調を支えた脚本戦略

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嵩が主人公でない理由

 嵩の主人公が観られなかったのは朝ドラという放送枠にも理由があるだろう。世はジェンダーフリーが当たり前だが、朝ドラは男性を主人公とする作品が極端に少ない。

 2000年以降の計50作品のうち、男性が主人公だったのは3作品しかない。10分の1以下である。朝ドラは視聴者の圧倒的多数が50代以上の女性。それが影響しているのだろう。

 のぶを主人公にしたのは脚本を担当した中園ミホ氏(66)ではない。NHK側の提案である。制作統括の倉崎憲氏は一部の取材にこう答えている。

「企画の入り口はやなせたかしさんでしたが、自伝とか過去のインタビューを見ると、暢さんがいなければ漫画家になっていたかも分からないし、アンパンマンも生み出されなかったかもしれない。そう強く感じたのです」(サンデー毎日2025年8月10日号)

 もっとも、暢さんの人柄や足跡を知る資料はほとんどない。たとえば1946年に数か月間在職した高知新聞に入社する前、東京でも働いていたらしいが、詳細は不明。中園氏もこう語っている。

「暢さんについては、やなせさんが書いているエッセーから人物像を探りましたが、5つほどのエピソードしかなかったんです」(朝日新聞デジタル2025年9月8日)

 高知新聞時代のおでん食中毒騒動などである。資料がほとんど存在しない分、史実の縛りから解放された。だから戦前ののぶが愛国教師になるという異色の設定も生まれた。のぶを自由に描けることが、嵩が主人公にならなかった一番の理由かも知れない。

 ちなみに嵩役の北村匠海は映画では主演級。「あんぱん」の主演を任されたとしても不安はなかっただろう。不良少年たちの対立を描いた主演映画「東京リベンジャーズシリーズ」(2021年~)は大ヒットした。この映画で北村の恋人役を務めたのが今田だった。

 北村は蘭子役の河合優実とも主演映画で共演している。サスペンス「悪い夏」(2025年3月)である。市役所の福祉課職員役の北村が、生活が逼迫するシングルマザー役の河合を心配し、接近を試みる。ところが河合の背後には北村を騙そうとするヤクザがいた。

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