マージンを抜かれすぎて“高速に乗ったら赤字”の下請けも…運送業界を悩ませる「多重下請」解消に“トラック法改正”も現場からは「意味がない」の声

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「ついていけない事業者は淘汰されれば良い」

 実はこの事態を見据えてか今年6月に追加で法改正が行われ、来年には元請けとなった「貨物利用運送事業者」にも管理簿の作成義務が課されます。しかし、現場の事業者に話を聞くと、ほとんどの人がこの改正部分を知りません。これは国交省も「周知がまだまだできていない。今後やっていく」と認めるところです。

 加えて、来年施行の改正法では下請は2次請以内に制限するよう努力義務が課せられます。一方で、講演会を行った際にアンケートをとると、地方だとこの努力義務に対して半数以上が反対の立場を取ります。多重下請の末端を担う地方の零細トラック事業者からすれば、仕事がなくなっては困りますからね。

 もちろん政府や業界として多重下請構造の是正を目指すのは重要なことでしょう。しかし、このような地方の企業や立場の弱い零細企業が実運送の多くを担っており、また雇用のセーフティーネットになっていることも事実です。アンケート結果を見ると、このような事業者からは法改正について十分に理解が得られているとは言い難い。

 以前、多重下請構造是正のための法改正について、ある地方運輸局の職員に意見を求めると「ついていけない事業者は淘汰されれば良い」という答えが返ってきて驚いたことがありました。現場を軽んじて「淘汰されればよい」と突き放して考えていては法改正を行っても周知はできませんし、事業者の理解も得られません。理解が得られなければ、また「抜け道」を探られるだけでしょう。国交省は現場あっての法改正であることを肝に銘じるべきだと思います。

橋本愛喜(はしもと・あいき)
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許を取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働問題、災害対策、文化差異、ジェンダー、差別などに関する社会問題を中心に執筆中。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)、『やさぐれトラックドライバーの一本道迷路 現場知らずのルールに振り回され今日も荷物を運びます』(KADOKAWA)

デイリー新潮編集部

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