「技術系」国家公務員が400人超「定員割れ」の非常事態…理系学生の“公務員離れ”が止まらない根本的な理由

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 理系学生の公務員離れが著しい。2025年度の国家一般職技術系の最終合格者は1206人と前年比19%減。「デジタル・電子・電気」「機械」「土木」などを中心に採用予定者を割り込み、技術系全体では400人以上の“定員割れ”という事態だ。技術職の公務員は行政職に比べて影は薄いが、国家のハード面を支える極めて重要な役割を担う。理系公務員不足を招くものは何なのか、元官僚で神戸学院大学教授の中野雅至氏に聞いた。

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 国家公務員の就職人気の低迷が叫ばれて久しいですが、年々その厳しさは増しています。幹部候補である国家総合職の2025年度春の採用試験では、申込者数1万2028人、倍率6.7倍と過去最低。2025年度の国家一般職(大卒程度)の採用試験でも倍率は過去最低の2.9倍になりました。

 このように国家公務員全体で人気が落ちていく中、特に人材不足が著しいのは技術系の国家公務員、いわゆる技官です。技術系国家公務員の試験区分には総合職には理工系や農学系、一般職には土木系や機械系など複数種類がありますが、2025年春の総合職試験を見ると、主に文系が担う法文系の倍率は11.2倍なのに対して、理工系は3.2倍、農学系は2.2倍程度に留まっています。

 2025年度の国家一般職試験でも、「デジタル・電子・電気」「機械」「土木」区分を中心に最終合格者が採用予定数を大きく下回り、一般職全体で400人以上の“定員割れ”が起こる事態に陥っています。
 
 それでは何故、技術系職種を担う“理系公務員”の人気が下がっているのでしょうか。

公務員になるメリットが無さすぎる

 何よりも理系学生の目線に立った時に国家公務員になるメリットが無さすぎることです。理系学生のキャリアは、まず修士まで進み、学生時代に研究した専門性を活かして研究職などに就くことが一般的です。

 一方で国家公務員になった場合には、担当部署から短期間で異動することも多く、学生時代につけた専門性を活かせるとは限らない。国家公務員だと総合職の場合は政策立案などのペーパーワークが中心で、現場で研究をして製品開発などが出来るわけでもありません。

 今の学生たちは昔に比べて成長願望が非常に強い。少し前のデータですが、日本生産性本部の新入社員アンケートを見ると、「自分のキャリアプランに反する仕事を、我慢して続けるのは無意味だ」の質問に対して、「そう思う」と答えた人の割合は2010年には16.5%だったのが2018年には38.0%と倍以上に増加しています。

 今はさらにこの傾向が強まっていると言えるでしょう。2025年に行われたリクルートマネジメントソリューションズによる新入社員意識調査を見ても、「仕事をするうえで重視すること」の質問に対して、「成長」が35.1%と2番目の「貢献」の23.8%に大きく差をつけて最も重視されています。

 公務員試験の結果に目を移すと、税理士試験の科目免除などのインセンティブがある国税専門官の採用倍率が3.1倍~3.9倍(2025年度)と国家一般職よりも高い水準にあります。これも学生たちの専門性志向を端的に示すものではないかと思います。
 
 専門性を志向する傾向は理系学生ほど強い。しかし、専門職以外の公務員の職種では「待っていても学生は来るだろう」と、「~~省に入れば、~~課に配属されれば、このような専門性がつきます」といったアピールをほとんどしません。理系学生からすればただでさえ国家公務員になるメリットが薄いのに、さらに専門性のアピールもしないとなれば、就職先の眼中に入りようがありません。給料面にしても、特にIT系人材は優秀な研究者には新卒でも年収1000万円を出すという企業も現れる中、国家公務員では全く比肩できないでしょう。

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