女子校トップ「桜蔭学園」を脅かす20階建てのマンション 権利?ハラスメント?騒動が浮き彫りにする日本の後進性

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これはハラスメントではないのか

 桜蔭学園の志願者数は、2023年度の629人から、24年度は557人、25年度は542人と少しずつ減少している。学習環境が悪化すると懸念する人が増えたことが、響いているのかもしれない。

 前述のように、この問題は先日も「羽鳥慎一モーニングショー」で取り上げられ、そこでは、宝生ハイツの土地は私有地で、しかも一等地なので、所有者が最大限の利益を上げようとする権利を止めるのは難しい、という趣旨の意見が出された。しかし、本当にそうだろうか。

 しばらく前から、世界的にハラスメントに対して非常に厳しく臨むようになっており、この点では日本も世界の例外ではない。「ハラスメント」とは、相手が嫌がることをして不快感を覚えさせる言動の全般を指す。その際、行為者にそのつもりがなくても、相手が不快だと感じればハラスメントに該当する。相手が不快だと感じた時点で、「言論の自由だ」などという言い訳は一切通用しない。

 それなのに、暴力的な建物が、周囲の住環境も学習環境も毀損しようとして、周囲に住む人や学ぶ人が「不快だ」と声を上げているのに、どうして無視されるのだろうか。宝生ハイツ側は不動産所有者としての権利を主張するだろうが、周囲の住居や学校が「不快」だとして必死に声を上げているのである。宝生ハイツの場合は、行為者が人間ではなくモノだという点で、ハラスメントに該当しないというのかもしれないが、「モノ」を建てようとしているのは人間である。

 地方自治体とは第一義的に、住民の生活向上や福祉の増進を図るために存在している。ところが、東京都が最優先するのは、土地所有者の権利であるようだ。少なくとも、土地所有者が利益を最大限に追求した結果、「住民の生活向上や福祉の増進」に抵触するようであれば、両者のあいだを調停し、周囲を「不快」にする事柄については、土地所有者の権利も制限することが必要なのではないだろうか。

 最後に付言すれば、日本文化の継承者たる能の団体が、こうして文教環境を悪化させようとしていることもまた、日本の「後進性」の象徴のようで残念である。

香原斗志(かはら・とし)
音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。

デイリー新潮編集部

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