まるでドカベンの“秘打”だ…常識ではあり得ないまさかの“珍打球”に球場が騒然となった!

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 9月7日にNPB史上最短のリーグ優勝を決めた阪神。優勝マジックを「7」にした8月31日の巨人戦では、4対3と逆転直後の7回2死三塁、佐藤輝明の右翼ポール右へのファウル打球が浜風に押し戻されて5点目のタイムリーエンタイトル二塁打となり、ぶっちぎりでV街道を驀進したチームの勢いを象徴していた。そして、過去の熱戦でも、チームの勝利を呼んだ“珍打球”が1度ならず見られている。【久保田龍雄/ライター】

常識では説明がつかない珍軌道

 ファウルと思われた大飛球が、スライスして決勝本塁打になる珍事が起きたのが、1995年4月26日のヤクルト対横浜だ。

 ヤクルト打線は、横浜の先発・斎藤隆の前に8回1死まで無安打無得点と沈黙。この時点では0対0で、まだ勝負の行方はわからなかったものの、野村克也監督は「今日の斎藤は完璧。やられた」とノーヒットノーランを覚悟した。

 だが、ここからミューレンが四球を選んで1死一塁とすると、次打者・土橋勝征がバットをひと握り余らせて、斎藤の内角直球を鋭くとらえる。

 直後、本塁打性の打球が左翼上空に上がったが、飛距離は十分ながら、ファウルゾーンに切れていく。しかも、この日の神宮球場は、右から左に風が吹いているとあって、常識的には100パーセントファウル。マウンドの斎藤もファウルと思い込み、「次の投球」を考えたほどだった。

 ところが、逆風にもかかわらず、なぜか打球は右方向にスライスして、左翼ポールを直撃。ノーヒットノーランを阻止したばかりでなく、奇跡の決勝2ランとなった。

 この日のヤクルトの安打は、土橋のこの一発のみ。両チーム併せてわずか3安打の貧打戦を2対0で制し、怒涛の8連勝という結果に、野村監督も「ファウルからスライスして入った。ワシも打ったことがある。神業だ。今の(首位)ヤクルトを象徴しとる」と興奮気味にコメントした。

 同年、ヤクルトは2年ぶりのリーグVと日本一を達成し、名脇役として攻守にわたって貢献した土橋は、野村監督から「裏MVP」と絶賛されている。

 冒頭で紹介した佐藤輝明も顔負けの珍打球を放ったのが、チームの先輩・原口文仁だ。

 2018年5月15日のDeNA戦、0対0の6回2死満塁のチャンスに代打起用された原口は、5月に入って12打数1安打の打撃不振からスタメン落ちした屈辱を晴らそうと、「(自分自身にとっても)勝負どころと思って打席に立ちました」と気合十分だった。

「直球を狙っていた」原口は、カウント1-1からエスコバーの3球目、148キロの胸元をえぐる明らかなボール球を強引にフルスイングすると、バットが折れ、三塁ベンチの上まで飛んでいった。

 一方、打球は詰まりながらもハーフライナーのファウルとなって、サード・宮崎敏郎の頭上を越えたあと、スライスしてフェアゾーンに戻り、左前にポトリ。常識では説明がつかない珍軌道だった。

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