1話でやめた人はもったいない! 実はぐんぐん面白くなっていった“夏ドラマ” 「主人公の成長が今期もっとも目ざましい」

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 今期のドラマはテレ朝独走と思っていたが、中盤からやや減速。その代わりにぐんぐん面白くなっていったのがフジのドラマだ。こういうことが多々あるから、1話で視聴をやめちゃうのはもったいないんだよなぁ。

 主人公は色と匂いに敏感で、コミュニケーションが苦手な白鳥健治。演じるのは、悪行三昧からカルト教徒までニッチな役をさんざんこなしてきた磯村勇斗。

 健治の特性を優しく包み込んできた母親(村川絵梨)が亡くなり、健治は孤独に。賢いが、独り言や独特な語彙力、溢れ出す天体の知識が人を困惑させてしまう。そのせいで小学生の頃にいじめに遭い、学校と関係者を正式に訴えようとした経験がある。教員の父親(光石研)は勤め先を追われ、健治と距離をおくことに。母方の祖母(木野花)と星がよく見える田舎に住んでいる。

 健治は学生時代に司法試験の予備試験に合格。小学生で訴状を送ってきた健治を覚えていた久留島法律事務所の所長(市川実和子)が健治を雇用。しかし繊細な特性は弁護士向きではない。そこで、男子校と女子校の合併直後で揺れている私立高校に、健治をスクールロイヤーとして派遣する荒業を敢行。学校が大嫌いな健治が週3回通って、教師や生徒たちの法律に関する相談を受けるハメに……というのが「僕達はまだその星の校則を知らない」の軸だ。繊細な主人公とセンシティブな高校生たちが展開する優しい世界、と高をくくっていたが、どんどん興味が湧いてきてしまったのよ。

 健治のサポート役を押し付けられたのは、熱烈な宮沢賢治オタクの国語教師・幸田珠々(堀田真由)。大好きな賢治に感性が似ている健治が気になり始める。健治も珠々の声に癒やされ、お互いが好意を抱き始めている。言語フェチな二人が恋心をゆっくり育むわけだが、そこがメインではない。

 男子校と女子校の合併で、ただでさえ落ち着かない状況の校内、生徒たちもそれぞれの家庭環境の悩み(父母の不和、ネグレクトや教育虐待)や自分自身の問題(失恋やら学習障害やら反社会的衝動)を抱えている。って、簡単にまとめたが、学園モノに多い「えげつないいじめ」や「馬鹿が蔓延(はびこ)るスクールカースト」も出てこない。法律的にどうなのかという観点から、今どきの高校生の心模様を炙り出す。穏やかな生徒たちの青い怒りや絶望が伝わる。それぞれが苦しんではいるが、彼らは自分で答えを出すしかないことも分かっている。

 第8話で生徒の北原かえで(中野有紗)が健治に吐露した違和感は、胸に染みた。感性よりも効率、希望など持てない日本の現状に大人の責任を問う内容でもあり。

 生徒が素直で真面目なだけでなく、先生たちもしかり。第7話で学校を去った巌谷(淵上泰史)のエピソードは非常に切なくやりきれないものだった。自戒の念と自嘲、女子生徒を傷つけない大人の配慮と自己犠牲。

 また、健治を厄介視する理事長(稲垣吾郎)との因縁も含め、もうひと波乱ありそうだ。主人公の成長が今期最も目ざましくて、しかもほほ笑ましい良作である。

吉田 潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2025年9月18日号掲載

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