阪神史上最速V 「執念の神の手タッチ」や「世界的大記録」でライバル球団を「5弱」に突き落とす!

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世界初の快挙

 苦しい戦いが続いた6月にも、キラリと光る名場面があった。

 6月6日のオリックス戦、東晃平に4回までパーフェクト、6回1死まで無安打無得点に抑えられた阪神は、8回には先発・村上頌樹をリリーフした石井大智が右側頭部付近に強烈なライナー打球を受け、救急車で病院に搬送されるアクシデントに見舞われた。

 試合は0対0のまま延長戦に突入したが、劇的勝利をもたらしたのは、「目の前で(石井に打球が)当たっているところを見たので。大丈夫かなという思いと、やっぱり勝つことがいい報告だと思った」という木浪聖也のバットだった。

 10回2死一、三塁のピンチを4番手・桐敷拓馬が凌いだその裏、四球、安打、犠打、敬遠の1死満塁で打席に立つと、「目の前で(前打者・坂本誠志郎が)申告敬遠されたので。火が入りました。もう行くしかないと腹を括って」と、オリックスの4番手・川瀬堅斗から一塁線を鋭く破る執念のサヨナラ安打。今季最多の貯金「12」をもたらした。

 藤川監督も「負けたくないという気持ちと、何とか勝たなければいけないという気持ちがチーム全体に、最後ひとつになれたかな」と評した今季2度目のサヨナラ勝ちがチームを勢いづけ、6月8日まで4連勝を記録。同10日から7連敗と長いトンネルも経験したが、6月初めに6勝1敗と貯金を殖やしたことがモノを言って、7月の大攻勢につながった。

 1点差の接戦を制したばかりでなく、世界的な大記録が生まれたのが、8月19日の中日戦だ。

 優勝マジック「22」の阪神は、3対3の6回に代打・糸原健斗、熊谷敬宥の連続タイムリーで2点を勝ち越すが、7回に4番手・及川雅貴が岡林勇希に右越えソロを被弾。1点差に詰め寄られた。

 残り2イニングを何とか逃げ切るため、8回から石井大智が5番手として登板。1死から代打・ブライト健太に右前安打を許したものの、次打者・上林誠知をフルカウントから内角低め153キロ直球で空振り三振。ブライトの二盗失敗による三振ゲッツーで、見事無失点で切り抜け、最終回の守護神・岩崎優とのリレーで、値千金の1点差逃げ切り勝利を演出した。

 この結果、8月17日の巨人戦で自ら更新したばかりのNPB連続試合無失点記録を「41」に伸ばし、シーズンをまたいでのMLB記録超えもはたした(18~19年にアストロズ・プレスリー、21~22年にブルワーズ・ヘイダーが達成)。単年での達成も、もちろん世界初の快挙になる。

 だが、石井は「反省するところがたくさんありましたけど、本当に(坂本)誠志郎さんに助けられた。盗塁をアウトにしてくれたんで。すごく大きなプレーだった」と謙虚に振り返り、体を張ってピンチを阻止してくれた女房役に感謝の言葉を贈った。

 そして、2シーズンぶりVを決めた9月7日の広島戦でも、石井は8回の1イニングを無失点に抑え、48試合連続無失点、防御率0.18という驚異的な数字で、史上最短の栄冠に花を添えている。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新著作は『死闘!激突!東都大学野球』(ビジネス社)。

デイリー新潮編集部

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